2012 Fiscal Year Research-status Report
黒潮再循環変動特性の解明と大気大循環場への影響理解
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23740348
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
杉本 周作 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50547320)
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Keywords | 黒潮再循環 / 水塊 / 大気海洋相互作用 / 黒潮蛇行流路 / 亜熱帯モード水 / Argoフロート |
Research Abstract |
日本南方を流れる黒潮は,2種類の流路形態(蛇行・直進流路)を取る.そこで,本年度は,Argoフロートによる観測資料(水温・塩分)を使用することで,黒潮の流路形態が,黒潮再循環域の海洋構造決定に果たす役割解明を目指した.まず,海洋循環系を調べた結果,黒潮蛇行に伴い四国沖に局地的な直径500km程度の再循環が分布することがわかった.そして,冬の間に,この再循環域で高水温(19度以上)の暖水塊が形成されることを発見した.そして,水塊特性を調べた結果,この暖水塊は一様な水温で特徴づけられることがわかった.さらに,この暖水塊の季節変化を調べた結果,春から夏までは亜表層(150m深度近辺)に存在するが,秋以降にその特性を失うことがわかった.この消失要因として,暖水塊上部での鉛直密度混合の影響を指摘するに至った. 黒潮再循環域海洋構造の更なる理解を得るためには,水温だけではなく,塩分の知見も必要不可欠である.そこで,Argoフロートを使用することで,再循環域の亜熱帯モード水の塩分変動を調べた.その結果,2009年・2010年の塩分が極めて低いことがわかった(34.7 psu以下).そこで,気象庁作成の大気再解析資料を用い,この低塩化要因を調べた結果,暖候期の過剰降水が主因であることがわかった.そして,この降水は,亜熱帯高気圧の南東縮退に伴う低気圧経路の変化によることを明らかにした.また,本課題が着目した黒潮再循環系の東部境界域では,亜熱帯海面水温前線が位置している.この変動特性を理解するために,気象庁気象研究所提供の歴史実験資料を使用した.その結果,前線強度は約20年周期で変動しており,これは低渦位水(モード水)分布に伴う海洋構造変化によることがわかった. 一連の成果は,国内・国外で開催された学会で発表され,1編が国際学術誌に掲載され,2編が投稿・改訂中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の目的は,観測資料解析を遂行し,黒潮再循環域の海洋内部構造の理解を得ることであった.そこで,日本南方での黒潮の流路に注目した結果,黒潮蛇行期に四国沖に暖水塊が形成されることを見出し,その季節変化特性を示すことに成功した.本研究が得た四国沖暖水塊に係る知見は,黒潮再循環域の海洋構造の理解に資するものである.また,一連の結果は,現存の海洋大循環モデル実験の再現性向上に貢献する成果である.現在,得られた研究結果を論文としてまとめ,国際学術雑誌へ投稿している段階である. さらに,本課題を遂行する中で,黒潮再循環域の海洋構造決定に際し,水温だけではなく塩分も重要であると着想するに至り,その時空間変化を調べるに至った.その結果,2009年・2010年の異常低塩化を発見することに成功した.そして,その主因が,外洋での過剰降水であることを明らかにした.当研究は,本研究課題の発展型研究であり,現在,得られた成果を国際学術誌に投稿中である.以上より,本年度は,「当初の計画以上」に進展したものと判断するに至る.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は,黒潮再循環域海面水温が果たす大気大循環場へのフィードバック機構に迫る.具体的には,次の手順を想定している.(1)解析データセットの収集.主に,気象庁作成の大気再解析資料を使用する.また,中緯度大気にはエルニーニョ現象に関する信号があらわれ,これは本研究にとってノイズに他ならない.そこで,本課題では,統計的手法を用いることで,エルニーニョ現象に関連する信号を除去する.(2)大気へのフィードバック機構の検討.ここでは,海面乱流熱フラックス(潜熱フラックスと顕熱フラックスの和)資料を用いることで,大気海洋間の熱交換に果たす黒潮再循環域海面水温の役割を定量的に評価する.現時点では,海面水温に応じた熱放出が,上空大気温度の鉛直構造を変え,結果として大気大循環場に影響するものと期待している.そこで,この仮説を検証するために,黒潮再循環域での熱放出量(増大期・減少期)による合成図解析から,対流圏全層での大気場の応答特性を調べる.そして,中・高緯度大気海洋相互作用系の実態を,黒潮再循環域海面水温が与える大気への強制という観点から考察する.(3)変動シナリオの構築.3年度にわたり得られた成果を総合的に解釈することで,黒潮再循環変動のシナリオを確立し,気候の数十年変動の実態に迫ることを目的とする.そして,得られた成果を,国内・国外で開催される学会で広く公表し,学術論文としてまとめ国際学術雑誌に投稿する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は,今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり,平成25年度請求額とあわせ,平成25年度使用予定の大気再解析資料データの保管,および解析フォーマットへの変換のためハードディスク購入に使用する予定である.
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Research Products
(7 results)