2011 Fiscal Year Research-status Report
水星大気光観測による磁気圏と固体表面の相互作用に関する研究
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23740370
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
亀田 真吾 立教大学, 理学部, 准教授 (30455464)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 水星 / 地上観測 / 大気光 / ナトリウム / 分光 |
Research Abstract |
太陽系惑星において, 水星は非常に希薄な大気を持ちつつ, 固有磁場を有する唯一の惑星である. 他に固有磁場を持つ惑星である地球・木星・土星においては既に周回衛星による探査が行なわれ, 濃い大気を持つ惑星の磁気圏については研究が進められてきた. 一方, 水星では2011年3月にようやく初の周回衛星観測が開始されたばかりであり, 惑星科学分野においては未開の地である. 大気と磁場を持つ惑星では磁気圏からの降り込み粒子と大気粒子の衝突によるオーロラ発光現象が観測されているが, 大気が非常に希薄な水星においては, 降り込み粒子が大気粒子の代わりに固体表面に直接衝突する. 過去に行われてきた大気光観測結果は, 大気が高緯度領域から放出される傾向が高い可能性を示しているが, 継続的な磁気圏観測がこれまで行なわれていなかったため結論は出ていない. 本研究の目的はメッセンジャーの観測期間に合わせて大気光観測を実施し, 水星磁気圏と固体表面の相互作用の全容を解明することである.水星は太陽に近いため、日没後あるいは日の出前に観測を行なう場合、観測時間が30分程度に限られる。一方、日中にも観測を行なえば観測時間を飛躍的に延長する事ができる。私は岡山天体物理観測所で日中に水星観測を実施した実績があり、2011年度にも岡山で観測を実施した。しかし天気が非常に悪く、年度前半の時点で1日もデータを取る事ができなかった。そこで、私はハレアカラ観測所で日中に水星観測を実施するため、望遠鏡に専用の遮光フードを作成した。現地ではフードに使える素材を購入するのが困難であったため、あらかじめ望遠鏡の大きさ、観測ドームの大きさなどを調査し、材料を日本で購入し現地での加工を行なった。その結果、これにより、9月には日中に観測を実施することができるようになり、1日あたり5-10時間程度という長時間の観測に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
岡山天体物理観測所では日中に水星大気光観測を行なった実績があったため、私は共同利用申請を行ない5月、8月、12月に観測時間を確保した。しかし、この期間において岡山の天候は非常に悪く、結果として有効なデータは全く得られなかった。この結果から、晴天率の高いハワイ・ハレアカラ観測所の望遠鏡を改修し、日中に水星大気光観測を行えるようにすることがより重要になった。ハワイ・ハレアカラ望遠鏡の口径は40cmであり、太陽離角が10度程度の時に太陽光がシュミット補正板を照らさないようにするためには2m程度の長さのフードが必要となる。しかし、この望遠鏡は夜間にも使用されるため、フードは夜間には外さなければならず、2mほどのフードを取り付けることは非常に困難である。また風により追尾精度が非常に低下してしまうことも懸念された。そこで私は望遠鏡の一部(軸外し・直径12cm)を使う事により必要となるフードの長さを減らす事にした。これにより必要な長さは約70cmとなり、鏡筒の長さ60cmに対して同程度であるため、伸縮により夜間観測に影響がないようなフードを製作する事ができた。これにより、9月11日から14日の間に5-10時間という長時間の観測に成功した。その後、3月にもハワイ・ハレアカラ観測所にて日中の水星大気光観測を試みたが、不運にも天候が悪く有効なデータはほとんど得られなかった。しかし、この期間には8月に作成した紙製のフードを塩化ビニルやポリプロピレンシートを用いたフードに変更し、耐性を上げる事に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
メッセンジャーのデータは通常半年後に公開されることになっており、2011年9月までのデータは一部公開されているものの、磁場のデータに限られており太陽風流量を推測する事は難しい。現在ではメッセンジャーチームと連絡を取ることにより、太陽のコロナ質量放出がメッセンジャー衛星で検出された、すなわち水星に到達した時刻情報の獲得を試みている状況である。本年度は製作・取付で試行錯誤があったことや天候が良くなかった事もあり、観測時間が減ってしまい、不運にもコロナ質量放出が水星に到達した時に観測を実施する事ができていなかった可能性がある。しかし、岡山天体物理観測所よりも遙かに晴天率の高いハワイ・ハレアカラ観測所にて日中に水星大気光観測を可能としたことは本年度の大きな成果と言える。メッセンジャー探査機は2012年度も観測を継続するため、2012年度にはハワイ・ハレアカラ観測所にてさらに観測を継続的に実施し、コロナ質量放出到達時の水星大気密度変動の観測を目指す。現在太陽活動度が上がってきており、コロナ質量放出が水星に到達する頻度が増えると予想され、その時に水星大気光観測を実施している可能性が高まると考えられる。この観測に成功すれば、水星大気密度変動と磁気圏活動の相関が明らかとなり、水星大気放出過程について長らく続いてきた議論に決着を付ける事が可能となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2012年度は6月、8月、11月、2013年2月に水星の観測好機を迎える。これらの期間に現地で水星大気光観測を実施する。ハレアカラ観測所はインターネットによる遠隔観測機能が備わっているが、夜間観測を主目的としており日中に観測を行なうためには現地での作業(特にフードの伸縮)が必須である。このため、2011年度と同様に渡航費、滞在費を使用する予定である。また山頂に宿泊する事は禁止されており、山頂までは公共交通機関が存在しないためレンタカーを使用する必要がある。2011年度にフードが概ね完成したが、万が一の故障時に備えた材料の追加購入が必要である。現地では購入できず、故障してから準備すると観測時間を著しく失う恐れがあるため、事前の準備が必要である。2012年度は2011年度より太陽活動度が上がる見込みであり、コロナ質量放出の頻度が上がると予想される。また、2011年度はフードの完成が9月になったが、水星観測は6月の夏至付近で最も長く観測時間を確保できるため、繰越金を6月の観測旅費に充て、2012年度分を8月以降の観測旅費に充てる。
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Research Products
(5 results)