2014 Fiscal Year Research-status Report
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23740398
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
柵山 徹也 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80553081)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | アルカリ玄武岩 / プレート内火山 / スタグナントスラブ / ユーラシア大陸東縁部 / 脱水した海洋地殻 / 堆積物 / マントル遷移層 / 流体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、沈み込んだ海洋プレートがどの程度背弧側の上部マントルまで影響を及ぼしているのかを明らかにするために、ユーラシア大陸東縁部の新生代プレート内火山の岩石学的・地球化学的検討を行っている。同地域には新生代において散発的かつ広範囲にアルカリ玄武岩火山が噴出しており、コンパイルしたそれらの火山岩の化学組成に基づいて、大きく2種類の端成分的性質を持つ玄武岩と、それらの混合により生成した玄武岩に分けられるとする考えを筆者は新たに提案している。しかし本地域の玄武岩は、これまでも化学分析の報告は多数あるが、全データ(主成分、微量、同位体)の揃った報告はほとんどなかったため、詳細な議論ができないという問題があった。 平成26年度までに当初予定していた試料の採取(中国・韓国に噴出した約40火山)、4分の3の試料に関しては予定していた分析も全て終了し、その結果は平成25年に1編、平成26年に2編の論文として発表した(いずれも国際誌)。これらの論文では筆者の提案している二つの端成分的マグマのそれぞれの成因について主成分元素、微量元素、放射性同位体元素すべてを用いて検討した。その結果、沈み込み時に脱水した海洋地殻物質の融解と沈み込んだ堆積物に由来する流体の寄与による上部マントルかんらん岩の融解がそれぞれ2つの端成分的マグマの成因に寄与していることを示すことに初めて成功した。このことは沈み込むスラブの影響はいわゆる沈み込み帯にあたる比較的浅い部分(深さ<300km)のみならず、それよりの深いマントル遷移層付近にまで及んでいる可能性を示唆する。残りの試料に関しても、全岩粉末試料のICP-MSによる微量元素分析を終え、残りの同位体分析を行うだけとなった。また予察的に斑晶カンラン石中に含まれるメルト包有物に対してラマン分光分析計を用いた分析を行い、二酸化炭素の存在を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、ユーラシア東縁部新生代プレート内玄武岩火山の(1)地殻内での分化プロセスを適切に評価した上で、(2)マグマ起源物質やマントル融解条件を推定し、(3)火山活動をもたらした上部マントルプロセスを明らかにし、(4)他のプレート内火山との対比を行うことを目的として、ユーラシア大陸東縁部のプレート内玄武岩火山を対象に研究を行なっている。 この地域にあると考えられる2種類の端成分的組成を有する玄武岩のうちの一つの端成分が噴出する中国東部では、当初予定していた岩石採取、各種分析を全て終了した。その結果、中国東部の一部の玄武岩火山の化学組成は、かんらん岩の部分融解では生成が困難なこと、脱水を経験した中央海嶺玄武岩が二酸化炭素存在下で融解することでうまく説明できることを明らかにした。さらに、その特殊な玄武岩の噴出地域が、停滞スラブの分布とよい一致を示すことから、沈み込んだスラブ内海洋地殻の一部が背弧域で何らかのメカニズムで上昇してきている可能性を初めて指摘した。一方、もう一つの端成分玄武岩はユーラシア大陸東縁部の広範囲に噴出しており、韓国に50万年前に噴出した玄武岩も同一グループの玄武岩である。論文では、その地球化学的特徴が、沈み込んだ堆積物に由来する流体の寄与により上部マントルカンラン岩が融解することで生成するというモデルが成因を最もうまく説明することを新たに示した。さらに、中国東部玄武岩に酷似した化学組成を有する玄武岩として、フランスやロシア、アラスカのプレート内火山との比較と起源の違いも検討している。 当初計画していたサンプリングは、中国東部・東北部含め予定通り全て終えることができた。さらに、両端成分玄武岩については取得できる限りの分析データを用いて包括的に成因を検討した論文もすでに3編国際誌で発表することができ、現時点で達成目標の大部分は達成されていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
計画していたサンプリングはほぼ全て終えることができ、試料の4分の3は分析・まとめ・論文発表まで終了しているため、残る1年間で全体の総括及び発展的な研究を行いたい。 平成26年度予定していた分析については予定通りICP-MSによる微量元素分析を終えることができた。一方、本研究を含めた最近の研究から、停滞スラブからの水・二酸化炭素の供給が、中国東部・東北部両地域における火成活動において重要な役割を担っていることが明らかになっている。しかし、斑晶組み合わせの単純な玄武岩試料が多く、岩石学的なマグマの含水量推定が困難である。そこで追加として、斑晶の分離を行い、メルト包有物の含水量・二酸化炭素含有量の測定を追加で行うことを計画している。斑晶の分離およびメルト包有物分析には、JAMSTECに設置されている鉱物分離装置と二次イオン質量分析装置を用いるため、追加で分析装置を購入する必要はなく、申請している予算額の範囲内で分析できる。また、論文で報告した玄武岩試料の中に、非常に特徴的なカンラン石結晶を新たに発見した。このカンラン石結晶は外見は通常の斑晶のように見えるが、非常にMgに富む化学組成を有しているにもかかわらず、Ni含有量は極端に低い特徴を有する。このようなカンラン石は沈み込み帯の玄武岩火山に極稀に見つかるか、沈み込み帯において蛇紋石から脱水再結晶化した変成カンラン石、もしくはダイヤモンド中の包有物として確認されているのみであり、それらとの関連性は、プレート内火山の成因を考える上で非常に興味深い。この特殊なカンラン石斑晶を含め、斑晶中に含まれるメルと包有物中の流体組成を予察的にラマン分光光度計で分析したところ、二酸化炭素の存在は確認できた。
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Causes of Carryover |
本計画では試料採取(計三回)、各種分析を順調に行い、非常に興味深い結果を早い段階で得ることができたため、当初の計画より前倒しで最終年度前に3編の論文を国際誌に発表することができた。そのため、平成25年度は論文執筆や修正に大きな労力をかけることとなり、結果として分析や観察に割く時間・費用が当初予定していたよりも少なくなってしまった。一方で早い段階で結果をまとめることができたために、より発展的な研究対象を発見することができたことから、残りの時間と予算をそちらに振り分けるほうがより成果が得られる可能性が高いと判断した。また平成26年10月より申請者は独立行政法人海洋研究開発機構から大阪市立大学へと所属を変更したこと、当時の雇用先での研究業務で2ヶ月間研究航海(2014/7/31-2014/9/30)に参加することになったこともあり、当初予定したように研究を遂行できなかったこともその要因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、平成26年度実施できなかった以下の分析及び試料採取を行うための物品費、旅費および人件費・謝金に用いる。(1)岩石からの鉱物分離、(2)二次イオン質量分析装置による鉱物中含水量測定、(3)(必要に応じて)上記分析に必要な量の鉱物試料を確保するための追加サンプリング。なお研究機関変更に伴い、旧所属機関で貸与を受けていた研究に必要な機器を購入し、研究の基本的な基盤の再構築にも使用する。平成27年度前半までに予備的に項目1、2を行い、試料が足りなかった場合10月以降で(3)サンプリングを行う。 上記1から3までとは別に、すでに分析を終えつつある採取済みの試料について論文執筆および学会発表のための費用に当てる。
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