2011 Fiscal Year Research-status Report
二次元三角格子酸化物薄膜を用いた室温マルチフェロイック材料の創製
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23760026
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
関 宗俊 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40432439)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | フェライト / パルスレーザー堆積法 / 酸化物薄膜 |
Research Abstract |
二次元三角格子RFeO3・(FeO)n (n: 整数、R:希土類元素など)を対象として、スピン秩序と電気双極子秩序の同時発現を目指した。パルスレーザー堆積法(PLD法)を用いて、ZnO単結晶基板上に高品質なInFe2O4薄膜をエピタキシャル成長させることに初めて成功した。この物質系ではFeイオンは2+/3+の混合価数状態をとるため、還元雰囲気中で成長させる必要があるが、高温・低酸素圧力下ではInの蒸発が激しくFe3O4等の不純物相が析出しやすい。そこで基板温度およびターゲット組成を最適化することにより、化学量論組成を持つ高品質な結晶薄膜を得た。InFe2O4はフェリ磁性を示し、製膜後のポストアニールによって酸素欠損量を低減し、Feイオン間距離を小さくすることによって磁気相関を増大させ、RFe2O4系では最高となる270Kの磁気転移温度を実現した。また、この薄膜は半導体的な挙動を示し、電荷整列温度以上の高温領域で2次元バリアブルレンジホッピングが支配的になることが分かった。In層では、Inの5s軌道の重なり、Fe層ではFe2+-Fe3+間の3d電子のホッピングが伝導機構として考えられるが、Fe2+をZn2+で置換した場合には電気伝導度に変化がないのに対して、In3+サイトをYb3+で置換した場合は、キャリア数が大幅に減少するという実験事実から、三角格子面内のIn-5s,5p軌道の電子がキャリアであることが示唆された。InFe2O4はRFe2O4の中でも最も抵抗率が低く、マルチフェロイック材料としての応用は難しいが、元素置換により抵抗を更に増大させるとともに酸素欠損量を変えてFeイオンの価数状態を制御すれば、電荷移動型強誘電体を実現することができると期待される。また我々は、RFe2O4とは別の二次元三角格子構造を持つInFeO3の結晶成長にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では初めて270Kの磁気転移温度を有する二次元三角格子フェライトのエピタキシャル薄膜の形成に成功しており、研究目的である室温マルチフェロイック材料の創成に向けて磁気特性に関しては順調に成果が上がっている。これに対して電気特性に関しては、薄膜は室温において半導体的な挙動を示すため、現時点ではマルチフェロイック特性や電気磁気効果の発現は困難であると考えられるが、薄膜試料の高抵抗化に向けて、電気抵抗率を制御するための知見(元素置換、薄膜成長条件等)が得られており、今後も順調に研究を進めていくことができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も同物質の研究において、先導的な役割を果たしていきたいと考えている。今後、InFe2O4のマルチフェロイック素子応用を目指していく上で重要な課題となるのは、薄膜の高抵抗化である。これまで得られている薄膜は、結晶性が良いにもかかわらず、その電気抵抗率はこれまで報告されているバルクのものよりも100分の1以上小さな値となっている。これは薄膜中の酸素欠損が多いことと、In-O層が電気伝導パスを形成することが原因となっている。酸素欠損量は、製膜中の酸素分圧を変化させることによって制御可能である。一方、In-O伝導ネットワークのIn5s電子の寄与は、In3+を他元素(Yb3+、Lu3+等)で置換することにより低減させることができると考えられる。しかしながらこれらの元素を置換した場合、850℃の結晶成長温度が必要となり、このような高温でPLDによって製膜すると、薄膜の構成元素が蒸発して、組成の制御が困難になってしまうという問題がある。そこで、低温(600℃)での蒸着後に薄膜にYSZ基板を被せて還元雰囲気中850℃で熱処理するという手法(反応性固相エピタキシー法)で薄膜の作製を試みる予定である。これまでに、薄膜構成元素の蒸発を抑え、LuFe2O4と同程度の電気抵抗率(~101Ωcm-1)を有するIn0.3Yb0.7Fe2O4薄膜の作製に成功している。しかしながら、この物質においても、まだ強誘電性は確認できていない。高温マルチフェロイック特性を発現する薄膜の創製に向けて、今後はターゲット組成や熱処理条件の最適化が最重要課題となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
元素置換による電気特性の変化を調べることが最重要な課題となるので、主な研究費の使途としては、薄膜の原料となる酸化物粉末材料や基板となる酸化物単結晶基板が挙げられる。また、次年度は研究の最終年度であり、多くの成果を上げてそれらを積極的に発信していくため、酸化物エレクトロニクス関連の国内・海外の学会(International Workshop on Oxide Electronics、米国材料科学会、米国物理学会)への参加を予定している。そのための旅費として研究費を使用させていただきたいと考えている。
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