2011 Fiscal Year Research-status Report
茸子実体をバイオセンサとしたSPA型栽培システムの研究
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23760375
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Research Institution | Kanazawa Technical College |
Principal Investigator |
柳橋 秀幸 金沢工業高等専門学校, 電気電子工学科, 講師 (10553208)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | SPA / 計測工学 / 生体生命情報学 / モデル化 / 菌類 / 茸 |
Research Abstract |
当該年度はまず,生体電位に基づいた栽培環境制御のための基礎資料を得るため,菌床培地側面への電圧印加実験を実施した。マイタケ培地内部の生体電位を計測し,この電位に同期した電圧(±20V)を培地側面から印加したところ,茸子実体の生長抑制が認められた。次に,培養期間中のマイタケ培地に遠赤外線を2カ月間照射し,照射後は非照射区の培地とともにこれを栽培して形態形成を比較した。その結果,照射区の培地では菌傘が大きく広がって形態形成する傾向が見られた。 形態形成の評価手段として,LC(液体クロマトグラフ)やNMR(核磁気共鳴)の緩和時間を検討した。異なる生体電位応答を示す環境条件(青色光および赤色光)にて茸子実体を栽培し,これを供試体としてLCおよびNMR分析に供した。その結果,含有成分や緩和時間に差異が認められ,これらの手法が形態形成評価に応用できる可能性が示唆された。次年度も引き続き,再現性実験に取り組む予定である。 茸栽培工場における実地試験場確保の目処が立ったため,研究計画を前倒しして,茸の生体電位応答特性に基づいたSPA(スピーキング・プラント・アプローチ)式生育環境制御システムの設計を開始した。当該システムの仕様は以下の通りである。第一に,計測した直近特定時間分の生体電位から電位の傾きを計算し,あらかじめ設定された正あるいは負の傾きの閾値を超えた場合に光源をオン・オフする。第二に,湿度を一定間隔で意図的に変動させ,この変動に伴う生体電位変動を茸の生理活性度診断の指標として光源の光強度を調節する。第三に,収穫時期が近付いた茸子実体では,自発性の生体電位変動(バイオリズム)が減衰する知見に基づき,茸の成熟期には菌傘の色づきを良くするために光源の種類を変更する。以上の仕様を満たす制御プログラムのフローチャートを完成させ,プログラム作成,システム構築に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は電界および不可視光域が茸子実体の生体電位や形態形成に及ぼす影響について基礎的知見を得た。これにより,実際の栽培工場で変更可能と考えられるほぼ全ての環境因子について,生体電位や形態形成に及ぼす影響の基礎的知見を得た。この点については,研究実施計画と比較して,おおむね計画通りに進捗しているものと評価する。 形態形成の評価手法として本年度はLCおよびNMRの観点から取り組み,両手法ともに評価手段となり得る見込みを得ることができた。研究者はLCについては専門外であり使用方法の習得に時間を要する見込みであったが,同学園金沢工業大学の教員から技術支援を得ることができたため,順調に進捗した。NMRについては,当該研究用の設備を借りている同大研究室における他研究用設備を茸子実体の非接触診断に応用できると考えたため,当初研究計画には盛り込まれていなかったが,試行的に実験に取り組んだ。その結果,有意な結果が得られ,形態形成の評価手段の選択肢を拡大するに至った。 茸の生体電位応答特性に基づいたSPA式生育環境制御システムの構築については次年度から取り組む予定であったが,茸栽培業者の協力により実地試験場確保の目処が立ったため,研究計画を前倒しし本年度より着手することとした。当該システムは実際の栽培工場における将来的な低コスト運用を考慮し,制御する環境因子は光源の強度と種類,湿度に絞った。制御システムの構築は研究者の得意とする領域であることが寄与して,茸の生体電位変動に基づいて環境を制御するためのフローチャートとシステムブロック図の作成は極めて順調に進捗した。システムの構築についても,既に現時点で製作できるものから順に着手している。 以上に示した研究の各項目の達成度を総合し,当該研究は当初の計画以上に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに,様々な環境因子が茸子実体の生体電位および形態形成に及ぼす影響について明らかにし,生体電位に基づいた栽培環境制御のための基礎資料を得た。今後は本年度着手した茸の生体電位応答特性に基づいたSPA式生育環境制御システムの構築を最優先とし,これを完成させる。 当該システムは実験室用と栽培工場用の2組を用意する。前者は動作確認と改良のためのデータ取得,後者は実地試験を目的とする。具体的には,SPA用プログラムの作成,制御系(電子回路)の製作(実験室用と栽培工場用の2組),実験室用の栽培チャンバの製作,栽培工場用の光源装置の製作である。SPA用プログラムは生体電位データの取得,解析,制御信号生成を主とする。制御系は光源,サーモクーラー,加湿器,生体電位測定器の制御を主とする。実験室用の栽培チャンバの製作は,設計,フレーム組み立て,断熱材貼り付け,環境制御機器取り付けなどの工程を要する。栽培工場用の光源装置の製作は,設計,放熱板加工と高輝度LEDの取り付け,配線,電源装置製作などの工程を要する。 まず,実験室用システムを完成させ,これを試運転して動作検証するとともに,取得データをフィードバックしてシステムの改良に努める。改良後のシステムから栽培工場用のシステムを新規構築し,栽培工場に供して実地試験に臨む。実地試験は数百個程度の菌床培地を用いた大規模なものを計画している。実地試験は期間を空けて複数回実施し,得られたデータは次回の試験の改善に反映させ,必要に応じてシステムの修正を図る。収穫した子実体は形態形成,含有成分,香気成分などの観点から総合的に評価する。 このほか,SPA式生育環境制御システムの構築と並列して,未試行分の環境条件について茸子実体の生体電位と形態形成に及ぼす影響を明らかにし,電気工学の立場より茸の生態のさらなる解明に努める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は主としてSPA式生育環境制御システムの構築に用いる。当該研究は当初の予定よりも進捗しているため,当該年度においてすでに当該システムの構築に必要となる一部の資材を購入した。次年度は当該システムに必要な残りの資材の購入を進める。この資材のうち,主たるものはプログラム開発環境,制御用パソコン,データ通信機器,データ入出力モジュール,光源装置一式,栽培記録装置一式である。実験室用の栽培チャンバについては,過去の研究で使用していた環境制御チャンバを解体して金属フレームや断熱材などを再利用することで費用を抑えることを検討している。 このほかの研究費の使途としては,形態形成評価に用いるLCやGC(ガスクロマトグラフ)の消耗品費用,学会発表や情報収集のための旅費,論文の別刷り費用などを予定している。 次年度以降(最終年度)の研究費の使途としては,SPA式生育環境制御システムは完成している予定であるので使用額は前年度よりも少なく,形態形成評価に用いるLCやGCの消耗品費用,学会発表や情報収集のための旅費,論文の別刷り費用などを予定している。
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