2012 Fiscal Year Research-status Report
モロッコにおけるアンリ・プロストの都市計画とアール・デコの建築に関する統合的研究
Project/Area Number |
23760606
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
三田村 哲哉 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (70381457)
|
Keywords | モロッコ / アンリ・プロスト / アール・デコ / カサブランカ / ラバト / マラケシュ / フェズ / メクネス |
Research Abstract |
今年度、本研究課題において明らかとなった主な研究成果は、次の3点である。第一はパリのフランス建築協会20世紀資料センターにおいて建築家・都市計画家アンリ・プロスト、および彼以外の建築家・都市計画家のものも含む同時代のモロッコ建築・都市計画関連の史料、および当時の現役大統領らも名を連ねる民間の社会改良を志したエリートたちによる公益団体ミュゼ・ソシアル付属図書館において収集した史料から、当時のモロッコ歴史的都市における新市街の建設手法は、1908年からミュゼ・ソシアル内の都市・農村衛生部会において議論されたフランスの新たな都市計画の影響を強く受けており、同団体においてもモロッコの都市計画に関する議論を行うなど、非常に高い関心を持っていたことが明らかとなった。後のパリ地域圏計画につながる大変重要な関連議論が導き出せる新たな研究の視点が得られた。 第二はモロッコ国立・王立図書館において収集した保護領公式報告書、およびパリ言語文化大学図書館において収集したユベール・リヨテが初代総督を務めた期間のモロッコ保護領官報から、都市計画が本格的に検討され始めたのは、リヨテがモロッコに到着した1912年から2年後、つまりプロストが同地で活動を始めた1914年からであり、国土全体のインフラの整備が進められた後、彼が描いた計画案を基本として都市建設が急速に進められたことが明らかとなった。 第三は、これまでモロッコの歴史的都市ではリヨテによる分離政策に基づいて、メディナの周辺に新市街が建設されたという解釈がなされてきたが、同資料によるとモロッコ全土で歴史的・文化的価値にある建築を中心とした遺産が、メディナ外の地域にあるものも含めて、歴史的建造物制度に認定する手続きが取られており、単に原住民とヨーロッパ人の生活圏の分離のみならず、保護領の歴史・文化が極めて高く尊重されていたことが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの到達度が「(2)おおむね順調に進展している。」とする理由は、次の通り昨年度の「今後の研究の推進方策」に掲げた研究事業をすべて完了させるとともに、新たな資料の所在の確認や発掘に成功しているからである。「①フランス建築協会20世紀資料センターにおける史料の閲覧および収集」がプロストのもののみにとどまらず、他の建築家の史料収集まで完了したこと、「②エクス=アン=プロヴァンス国立古文書館分館における史料閲覧および所在の確認」を実施したこと、「③研究対象フェズとメクネスにおける実地調査」を遂行したこと。さらにラバト国立・王立図書館において新史料を収集するとともに、本研究において必要不可欠であった官報の必要箇所をすべて閲覧・写真撮影を行うことができたからである。 一般に一人の建築家のモノグラフを描き出す場合、その建築家の史料を中心に収集することによって大方の史料体系が把握できる。しかし本研究課題の場合、リヨテの下でプロストが遂行した都市計画が、当時の国家の最重要課題のひとつであるモロッコ保護領政策に深く根ざしたものであるため、プロストに関する資料の収集のみにでは到底不完全である。 現在までの到達度が「(2)おおむね順調に進展している。」としたもうひとつの理由には、閉館であったモロッコ国立・王立図書館付設古文書館、フェズ市古文書館、ナンシー近郊のリヨテの城館、およびパリ国立古文書館に史料が保管されていることが判明し、本研究を遂行する上で必要となる史料の大方が把握できたことがある。史料体系が不明瞭な研究課題においては、このようにコーパスが明らかとなったことは研究遂行の上で、非常に大きな成果であるとともに、これらの資料収集が次年度の大きな課題となる。またマラケシュにおける実地調査が残されており、こちらも次年度の大きな研究課題のひとつであると捉えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は本研究課題の最終年度にあたるため、史料収集および実地調査と全研究成果の取りまとめが求められている。前者は過去2年間において把握した全史料体系の完全な把握およびそれらの収集であり、後者は都市マラケシュにおける実地調査および現地における情報収集である。 第2年度において全史料体系が大方確認できているため、モロッコ国立・王立図書館付設古文書館における一次史料の収集、フェズ市古文書館における都市計画図の閲覧および写真撮影、ナンシー近郊にあるリヨテの城館に付設された資料館における一次史料の収集、およびパリ国立古文書館におけるリヨテの公式書簡の確認および閲覧を随時遂行するとともに、ミュゼ・ソシアル付属図書館において19世紀末から20世紀前半にかけて当時のエリートたちによる理想都市論に関わる資料も収集しておくべきであると考えている。プロストはモロッコから帰国し、コート・ダジュールの計画案、その後パリ地域圏計画案を描くこととなるが、これらの計画案につながる基礎的な議論、情報収集、意見交換がミュゼ・ソシアル内において実施されていたからである。 もちろんプロストはパリに帰国後、ミュゼ・ソシアルにおいてモロッコの都市計画について報告し、さまざまな意見を頂戴しており、それらがその後のプロジェクトに反映されているのか、否かはモロッコにおける都市計画とフランスにおけるそれとの関係を明らかにする上で、不可欠な検討課題であると考えている。 最終年度の研究課題は、こうした史料収集および実地調査が基本となるが、過去2年間に明らかにした新たな知見を社会還元するために、日本建築学会を中心とした論文集や講演会において公表していく所存である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題の第一年度、および第二年度において執行した主な研究費は旅費であり、第一年度には夏季休業期間を利用したモロッコの商業都市カサブランカおよび首都ラバトにおける実地調査と文献収集のための旅費、およびイギリスのユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンにおける学術情報の交換のための旅費であった。第二年度執行した主な研究費は、研究対象および研究資料の写真撮影に必要な機材の更新と、春期休業期間を利用したモロッコの首都ラバト、フェズ、メクネスにおける実地調査と資料収集のための旅費であった。 今年度はほぼ第一年度と同様である。本研究課題において実施する研究事業は、夏季休業期間ほかを利用したフランスのパリおよびナンシーにおける研究資料の収集のための旅費と、マラケシュにおける実地調査および情報収集のための旅費あり、第一年度および第二年度同様に旅費が主な研究費の使途となる。当初、本研究課題においては、第二年度に2回のフランスおよびモロッコへの出張を予定していたが、学務ほかのスケジュール変更のために、第二年度における出張を期間を延ばして1回にまとめて実施するとともに、同年度に中止とした第二回目のフランスおよびモロッコへの出張を最終年度にあたる第三年度に実施することにした。 次年度使用額(B-A)が生じた理由は、上記のとおり、1回のフランスおよびモロッコへの出張に必要な予算を第二年度から第三年度に計上したためであり、当初の計画通り、同研究費は旅費として執行することを予定している。 次に大きな予算は、本研究課題において必要な図書を中心とした資料の購入費であり、そのほかに必要なものは最終報告書の作成に必要な費用、文具一式程度にとどまる予定である。
|
Research Products
(3 results)