2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23760607
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Research Institution | Tohoku Institute of Technology |
Principal Investigator |
大沼 正寛 東北工業大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (40316451)
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Keywords | 天然スレート / 民家 / 集落 / 北上川 / 建築歴史地理 / 明治・昭和三陸津波 |
Research Abstract |
本研究は、北上川流域に分布する天然スレート民家の歴史地理的背景を明らかにすることを目的とし、フィールド視認調査とマッピング、ならびに文献調査をその実施内容とするものである。 研究初年度(平成23年度)は、東日本大震災で壊滅的な損壊を受けた領域がスレート民家の分布域とかなり重複することもあって、現地調査に大変困難があったが、2年目にあたる平成24年度はようやく現地調査が行える状況になり、時間をみては踏査を進めてきた。 その結果、これまで知名度のある雄勝・登米から各地に波及したと思われたこの材料も、まさに明治三陸津波の頃に開発が進み、昭和三陸津波の頃に普及が進んだこと、陸前高田付近までの鉱脈がかなり開発されていたこと、昭和30年代に至ってもなお、茅葺きからスレートへの葺き替えがそれなりに流行していたこと、その一方で昭和も後期となると下火になり、この石材を求める施主は大都市圏の富裕層に限られるようになったため、東京駅の修復屋根を扱った地元の技能者でさえ、宮城岩手の民家に葺いた経験はあまりないという伝承上のギャップが存在していること、などを突き止めることができた。 また、その普及範囲については、北は内陸部で岩手県水沢市付近、西は栗原市近辺が、おおむね民家・集落としての伝播境界とみられる一方、南部は仙台市とも、宮城県南ともつかぬ部分があり、はっきりしない。少なくとも、いわゆる「地場産材による地域固有の屋根材使用」という定義上からは、石巻・松島・塩竈文化圏域を境界として、以南を含めないとみるのが妥当なようである。 上記の内容は、実証のための調査・記録・図化・編集に未だ作業を残しているとはいえ、明らかにしたいと考えていた内容の過半について、アウトラインを把握するに至ったことは、一つの成果といえるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
震災直後で調査研究が遅れた初年次に比べ、月1回程度の現地調査を重ねた本年度は、ようやくまともなフィールド調査に着手できたという点で、年度内のワークとしては尽力できたと評価できよう。とはいえ、全体の進捗からいえば、まだまだ不足は多い。というのも、本年度は所属大学を移した初年次にあたり、当然ながら数多くの授業を含む学内業務に馴染む必要があり、結果的に本研究へのエフォート率を上げることには限界があったからである。 さらには、新たな研究室体制において、所属大学でのこの種の研究の位置づけを妥当なものとし、かつGIS操作などを行うためのPC/OA環境を整備することにも時間を要した。研究補助学生についても、専門性や修学経緯の違いから、すぐに対応できる状況にはなかった。 一方フィールド調査地のほうは、場所によっては遺体捜索中心だった初年次に比べ、失われた街の記憶を追い求める気運が出てきている。ただし、公費解体により対象遺産は姿を消して行っているので、その状況を把握することも容易ではない。 以上、異動、研究室再整備、被災地での遺構激減というのが、やや遅れている達成度の理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、最終年度にあたり、やや遅れている状況を取り戻し、一定の知見にまとめることを目的とする。 まず、フィールド調査に一定の区切りをつけ、これまでの実地調査、文献調査をGIS上にマッピングして、歴史地理的に図化し、内容分析を行うことを第一の目標としたい。とくに、得られている情報の多くはテキストデータや写真データであり、数値化されている訳ではないので、入力段階でのキーワード整理、フォーマットが非常に重要になる。もちろん、地理的データであるから、村落、コミュニティ空間の境界設定をどうするか(例えば合併した市町村と実際の集落の関係の把握)なども問題である。これらに配慮しながら、研究論文として報告できるよう、知見をまとめていきたい。 また、ここで行う歴史地理情報の整理は、建築文化遺産という有限の存在を扱う訳で、今後も滅失は進むというのが冷静な見方になる。ゆえに、この情報整理は常にテンポラリーな性質を持っている。ある種の動態的な地域空間の記述法に、一定の手法を見出す必要があるし、逆に、少例とはいえ、新築のスレート住宅にもフィールド調査では出会っているので、データは増える要素もある。もちろん、未知の集落で再発見することもあるだろう。これらのことに配慮しつつ、動態的歴史地図を作成することに尽力したい。 そしてそのような基盤ができれば、年度後半、あるいは研究助成期間終了後も、追跡調査を重ねることが可能となるだろう。それらを見通しながら、研究費の残額と相談しつつ、国内外の復習的事例調査を行うことができれば理想的であると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
必ずしも十分なエフォート率を割くことができない2年目は、研究費使用を最低限に抑えてきた。平成25年度は、第一にフィールド調査結果を整理描画するために必要なPC周辺機器、補助学生アルバイトなどに充てる。また、確認のための追跡フィールド調査には度々向かう予定であり、小額でも頻度の高いフィールド調査交通費を支出することになるだろう。 また本研究に関する成果発表、内容相談の機会となる日本建築学会大会などへの参画経費、さらに、一度訪問した石屋根で知られる信州への視察や、可能ならばドイツなどのスレートの町並み調査を行い、我が国での一時的な普及を後時代に促すことになる明治初期の文化交流背景を探ることを目論んでいる。 本来、あらゆるフィールド調査系統を先行させ、知見をまとめるというのが一般的であろうが、これまでの進捗が芳しくないことを考慮すると、まずは成果をまとめるための基盤整備に経費時間を割き、余剰で追加フィールド調査を行うことが妥当という見解に至った。
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