2011 Fiscal Year Research-status Report
世界遺産候補「長崎の教会建築」の保存継承に向けた道具・技術の復原的研究
Project/Area Number |
23760616
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Research Institution | Nagasaki Institute of Applied Science |
Principal Investigator |
山田 由香里 長崎総合科学大学, 工学部, 准教授 (60454948)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 長崎の教会建築 / 鉄川与助 / 大工道具 / 西洋建築技術 / 技術の保存継承 |
Research Abstract |
本研究の目的は、平成21・22年度の「長崎の教会建築」の道具・技術・組織に関する史的研究の成果を受け、I鉄川与助大工道具の鉋12点の復原、II復原鉋を用いた技術検証、III総合的検討と周知からなる。平成23年度はIに取組むことを計画した。実際はIに留まらず、IIIIIについても成果を得た。復原に関わった職人と、新上五島町鯨賓館ミュージアムなど関係機関の協力に拠る。記して感謝いたしたい。研究の結果、以下の点が判明した。 (1)大工道具は、鉋1点のMANUFACTURE FRANCAISEの刻印から判断し、1910~1930年に製作使用されたものである。 (2)復原は、台を小島工作所(長崎県諫早市)の久保勝彦氏と松田英和氏、刃を常三郎(兵庫県三木市)の魚住徹氏に依頼した。台は、8点が白樫、1点が檜、2点が桜、1点が白樫と桜の組合せで、比重と堅さの違いを耐久性や可動性に活かしている。刃は、2点が三木で完成できたが、残りは特殊鉋で現在請負える鉋鍛冶はいないと、さらなる加工を当方で探す条件付であった。刃の発注後、台を寸法に合わせて木取りし、仕上げ面形状を加工し、穴を荒堀した。最後の調整は刃が来てから仕上げた。刃の加工も久保氏に依頼し、完成した。 (3)復原鉋で実際の削り形状を、青砂ヶ浦天主堂と頭ヶ島天主堂で対照した。聖体拝領台手摺、階段手摺、窓枠などに使用した蓋然性が高い。 (4)2012年3月20日~5月6日に鯨賓館ミュージアムにて、特別展「教会を作った大工道具―鉄川与助の知恵と工夫」と講演会を開催し、大工道具の存在と復原過程を周知した。復原を通じて、鉄川与助の時代の技術に通じる人はごく限られた人であること、それだけに大工道具の文化財的価値はより高いことが判明した。削り形状の対照により「長崎の教会建築」の技術を明らかにする一歩を踏み出すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在の達成度は当初の計画以上に進展している。その理由は、復原を引き受けてくれた職人の技術と新上五島町鯨賓館ミュージアムなど関係機関の協力に拠る。 台の復原を引き受けてくれた小島工作所の久保勝彦氏は、昭和14年生まれの家具職人で、鉋を自身で作るとのことで引き受けて下さった。17名の職人を抱える同所においても鉋製作を手がけるのは久保氏だけで、60歳代後半の職人ではもうできないという。久保氏は、新上五島町江袋教会祭壇復原や外海・旧出津救助院の建具修理など、高い技術を要する仕事を手がけられ、長崎の教会修復では欠かせない存在である。 刃を引き受けてくれた常三郎の魚住徹氏は、鉋鍛冶の三代目で、三木工業協同組合の鉋部会長を務める。当初、13社からなる三木の鉋部会で引き受け手がおらず、新潟三条まで広げて問い合わせても難しいとのことであった。魚住氏は、こういった鉋を大切に保存してほしいこと、できるところまでやってみようということで引き受けて下さった。幸運にも二人の職人に出会えたことが計画の大きな進展につながった。また、当初の見込みより製作を低額で引き受けてくれた点も進展した点である。 鉄川与助大工道具を所蔵する鯨賓館ミュージアムから、復原現場である小島工作所に道具を拝借するご高配を得た。貴重な道具の借用をお許しいただいた点に感謝したい。その後、特別展開催も引き受けて下さった。ミュージアムの協力があったからこそ高い精度の復原が実現し、周知も可能となった。 以上の点が、当初の計画以上に進展した理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、先に述べた研究実績概要の研究目的のうち、II復原鉋を用いた技術検証、III総合的検討と周知を推進する予定である。具体的には以下の4点からなる。 (1)大工道具の製作使用時期が1910~1930年と判断できることから、この時期に建設された青砂ヶ浦天主堂(1910)、大曽教会(1916)、江上天主堂(1918)、田平天主堂(1918)、頭ヶ島天主堂(1919)等において、復原鉋による削り形状の対照を行い、建設技術の復元検証を行う。 (2)鉄川与助大工道具を周知し、貴重な技術に関する理解を深めるために、長崎ピースミュージアム等での展覧会が実施できるように企画交渉する。 (3)平成23年度日本建築学会九州支部研究報告会において本研究について報告したところ、フランス製の刻印をもつ鉋の製造会社が1885年創業のカタログ通販会社であることから、現地のサン・テティエンヌで当時の受注記録が確認できるのではないかと建築史研究者から指摘を得た。重要な示唆であり、当時の東アジアにおけるパリミッション会の広範な活動を下支えしたのは、こういったフランス本国から取寄せることのできた道具であった可能性が十分に考えられる。サン・テティエンヌには、鉋を製造したMANUFRANCE社に関する充実した産業芸術美術館が近年整備されたところである。本研究の新たな展開として、現地調査を行う予定である。 (4)上記3点を踏まえて総合的検討を行い、教会建築がどのような道具・技術・組織によって実現したのかを総合的に明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に研究費は、平成24年度直接経費600,000円に、平成23年度の繰越金33,896円を加えた633,896円を予定する。 先述した今後の研究の推進方策のうち、(1)(3)の旅費として500,000円(国内旅費100,000円、国外旅費400,000円)を、(2)の展覧会開催のためのパンフレット印刷費・送料・消耗品費としてその他80,000円を、資料購入のための物品費として53,896円を予定する。
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Research Products
(5 results)