2012 Fiscal Year Research-status Report
世界遺産候補「長崎の教会建築」の保存継承に向けた道具・技術の復原的研究
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23760616
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Research Institution | Nagasaki Institute of Applied Science |
Principal Investigator |
山田 由香里 長崎総合科学大学, 環境・建築学部, 准教授 (60454948)
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Keywords | 長崎の教会建築 / 鉄川与助 / 大工道具 / 技術の保存継承 / 西欧技術の移入 / MANUFACTURE FRANCAISE社 / カタログ通信販売 |
Research Abstract |
本研究の目的は、I鉄川与助大工道具の鉋12点の復原(平成23年度完了)、II復原鉋を用いた技術検証、III総合的検討と周知、からなる。平成24年度はIIとIIIを計画し、次の調査研究を実施した。①復原鉋の展示、②サン・テチエンヌにおけるMANUFACTURE FRANCAISE社に関する調査、③総合的検討である。以下の成果を得た。 (1)展覧会「教会をつくった大工道具」を2012 年3 月20 日~5 月6 日に新上五島町鯨賓館ミュージアム、同年8 月14 日~9 月2 日に長崎ピースミュージアムで開催し、教会建築の道具・技術について周知した。 (2)MANUFACTURE FRANCAISE 社製の鉋の製作年代は1902 年から1910 年である。同社1910年版カタログのNo.817 の溝鉋と合致し、図から復原できる。同社は1885 年創業の欧州初のカタログ通信販売会社で、Montgomery Ward 社(米、1872 年創業)から着想を得た。豊富な図版と商品紹介を記したカタログに特色があり、1910 年版は940 頁に5 万点を収録する。 (3)サン・テチエンヌは、炭鉱を有し、13 世紀に金物や刃物を作り始め、18 世紀には武器製造の産業都市として発展、1827 年には鉱山用の鉄道が開業した。欧州初の通信販売は、資源、製造技術、輸送の恩恵に基づく。1910 年版に代理店として大阪と横浜があり、日本でも取引可能だった。1985 年に経営は終了したが、現在も創業時の社屋が残る。 (4)ド・ロ神父記念館の所蔵道具を1910 年版と対照させたところ、医療道具のひとつが合致し、Siphon-Club Sparklets(炭酸水製造器)であった。他にも、足踏み式ロクロ、メリヤス編み機、携帯用薬瓶一式、測量道具、温度計、調理器具、秤など、多くがカタログ商品と対照できることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの達成度はおおむね順調に進展している。 その理由は、平成23年度に鉄川与助の大工道具の復原が関係者や技術者の協力のもと計画よりも早く完了したこと、周知のための展覧会が2箇所で実現したこと、フランス・サンテチエンヌでの調査が可能だったこと、展覧会をご覧になった長崎市西出津町の出津修道院の辻原祐子氏の依頼によりド・ロ神父記念館所蔵道具の概要調査が可能だったこと、などによる。 当初は、当方の妊娠・出産のため(平成24年11月~25年1月まで産休取得)、計画と日程の整合が心配されたが、展覧会2箇所目の会場となった長崎ピースミュージアムでは、既にあった他の展示企画を調整して、日程と会場を用意してくださった。長崎の離島部の調査は体力的に厳しく見送ったが、代わりに現地調査をフランス・サンテチエンヌでのMANUFACTURE FRANCAISE社関連資料調査に集中した。その結果、フランス製鉋が日本に伝来した背景の一端が明らかになり、日本においてもカタログを通じて購入可能であったことが判明した。ド・ロ神父の長崎における授産事業は、このようなカタログを通じて取寄せられた道具によって支えられ、道具や技術の伝来につながったことを推察することができた。これは、新たな展開を示唆する成果である。 以上の点が、おおむね順調に進展している理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、先に述べた研究実績概要の研究目的のうち、II復原鉋を用いた技術検証、III総合的検討と周知を推進する予定である。具体的には以下の3点からなる。 (1)大工道具の製作使用時期が1910年頃と判断できることから、この時期に建設された青砂ヶ浦天主堂(1910)、大曽教会(1916)、江上天主堂(1918)、田平天主堂(1918)、頭ヶ島天主堂(1919)等において、復原鉋による削り形状の対照を行い、建設技術の復原検証を行う。 (2)ド・ロ神父記念館所蔵道具の詳細な調査を行い、MANUFACTURE FRANCAISE社の1910 年版カタログと対照させ、現在不明になっている道具の名前や使用方法を明らかする。 (3)上記2点および平成24年度までの成果を踏まえて総合的検討を行い、教会建築がどのような道具・技術・組織によって実現したのかを総合的に明らかにする。 なお、産休に伴う研究期間の延長に基づき、平成25年度で完了だったものを、平成26年まで延長していただいた。よって、平成25年度に(2)(3)を、平成26年度に(1)(3)を実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、産休に伴う研究期間の延長に基づき、当初の平成25年度直接経費500,000円を、平成25年に200,000円、平成26年に300,000円と、2年に分けて使用する。平成25年度は、200,000円に繰越金20,040円を加えた220,040円を予定する。 先述した今後の研究の推進方策のうち、(2)の旅費として150,000円(国内旅費)を、その他70,040円を資料・消耗品購入のための物品費として予定する。
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Research Products
(5 results)