2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23760659
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
関 剛斎 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (40579611)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | スピンエレクトロニクス / 構造・機能材料 / 超格子 |
Research Abstract |
スピン角運動量の流れである「スピン流」と磁化の相関を理解することは、スピントロニクスの発展において重要な課題である。本研究課題では、金属人工格子内に形成される磁気構造を積極的に利用することでねじれた磁気構造を人工的に制御し、ねじれた磁気構造とスピン流の相関を解明することを目的としている。本年度はまず、異種磁性金属をナノオーダでヘテロエピタキシャル成長させることにより、金属人工格子内にねじれた磁気構造を形成させることを試みた。そして、そのねじれた磁気構造を利用して空間変調された磁気構造とスピン流の相関を調べ、さらにねじれた磁気構造の磁化ダイナミクスの解明に取り組んだ。 超高真空マグネトロンスパッタ装置を用いて、ハード磁性体であるFePtとソフト磁性体であるPermalloy(Py)から構成される交換スプリング積層膜を作製した。この積層膜の磁気特性を評価したところ、外部磁場を印加することによりPy層内に磁化のねじれた構造が形成されることが明らかとなった。このねじれた磁気構造のPy層厚依存性を系統的に調べ、得られた実験結果を数値計算と比較することにより、Py層内における磁化のねじれ角が明らかとなり、磁場強度によりねじれ角を制御できることがわかった。 このねじれた磁気構造を有するPy/FePt積層膜に対し、電子線リソグラフィーおよびArイオンミリングを用いて微細加工を行い、面内および面直通電型磁気抵抗素子を作製した。磁気抵抗効果を評価したところ、磁気構造がねじれることによる素子抵抗の変化が観測され、ねじれた磁気構造と電流の相互作用の存在が示唆された。さらに、コプレーナ導波路とネットワークアナライザーを用いて強磁性共鳴スペクトルを測定したところ、Py層内にスピン波が励起されていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、今年度は(1)ねじれ磁気構造を有する金属人工格子の薄膜成長の最適化、および(2)磁気構造の理解と磁気伝導特性の評価について研究を遂行する予定であった。(1)に関しては、FePtとPyを組み合わせた積層膜においてねじれ磁気構造の形成に成功しており、順調に進んでいると言える。(2)に関しても、数値計算により実験で得られた磁気特性の再現に成功しており、ねじれ磁気構造の理解が大いに進んだ。さらに磁気抵抗効果の評価にも着手しており、ねじれた磁気構造と電流の相互作用の存在が示唆される結果が得られている。以上より、順調に進展しているものと判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に得られた結果をもとにし、平成24年度は「微小ナノ構造体の作製と電流による磁気構造の不安定性の評価」および「ねじれ磁気構造に起因した磁化ダイナミクスの観測」に関して研究を遂行する。 微細加工プロセスを駆使することにより、100nmオーダサイズのねじれ磁気構造を有する微小素子を作製する。この微小素子に電流を流して磁場による素子抵抗の変化を測定することにより、微小素子の面直通電型磁気抵抗素子効果を評価する。その後、直流電流印加による磁気構造の不安定性を調べる。微分抵抗の直流電流依存性を調べることにより、磁気構造の急峻な変化に起因した微分抵抗の変化を検出する。この測定により、電流および磁場に依存した磁化状態の相図を作成する。 さらに、磁気構造の不安定性により誘起された磁化ダイナミクスを、スペクトラムアナライザーにより周波数領域で検出する。素子に直流電流を印加することで磁化ダイナミクスを誘起し、磁気抵抗効果による素子端の高周波電圧をスペクトラムアナライザーに取り込み測定を行う。最終的にはスピントルク発振器としての可能性を検討する。平成23年度に行った研究から、FePt/Py積層膜では層内にスピン波が励起されていることが明らかになった。この磁化ダイナミクスに関する知見を活かし、電流によって誘起されるねじれ磁気構造の磁化ダイナミクスの理解を進める。 また、以上の直流電流による実験に加え、高周波電流あるいは高周波磁場を用いて誘起された磁化ダイナミクスを評価することにより、スピン起電力についても検討する。ねじれ磁気構造に高周波磁場等を印加し、ナノボルトメータもしくはオシロスコープで生じた起電力を測定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、薄膜試料の作製に必須となるMgOやサファイアなどの単結晶基板、蒸着用高純度金属材料などを物品として購入し、研究を遂行する予定である。また、本研究課題の成果を積極的に外部へと発信していくことを考えており、国内および国際会議での成果発表旅費、また論文投稿料として使用する予定である。
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