2011 Fiscal Year Research-status Report
生物から環境への「反作用」に着目した生態学・地球化学・進化学的理論研究
Project/Area Number |
23770024
|
Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
瀬戸 繭美 奈良女子大学, 理学部, 助教 (10512717)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 数理モデル / 作用・反作用 / 微生物群衆 / 海洋酸性化 / pH / 化学合成細菌 / 物質循環 |
Research Abstract |
本研究では、物理化学的環境から生物への「作用」に焦点を当ててきた従来の多くの生態学モデルに対し、生物から物理化学的環境への「反作用」に着目し、生物と環境の相互作用の理論的法則性の解明に望んできた。主に微生物群衆とpHの相互作用系を対象とし、平成23年度は申請書の計画通り数理モデルの構築と解析を遂行した。当初の予定とは異なり、化学合成細菌群衆ではなく植物プランクトン群衆によるpH改変のモデル化を行うこととした。これは二酸化炭素濃度上昇に伴う海洋酸性化の進行に対し、植物プランクトン-pH間の相互作用系がどのように応答するのかを調べることが急務であると認識したためである。モデル解析の結果、植物プランクトンが光合成と呼吸を介してpHを変化させることにより、化学平衡のみで決定するpH変化よりもpH変化が緩衝される場合があること、また、プランクトンバイオマス量変化に応じ、pHのレジームシフトが生じる可能性が明らかになった。これらの結果について現在論文を執筆すると共に、平成24年度より他の研究助成事業による共同研究にて、異なる二酸化炭素条件下での植物プランクトンの培養実験に着手し、実験結果との比較によるモデルの検証を予定している。モデルの正当性を証明することができた暁には、将来の海洋酸性化を予測する上で重要な知見を与えることができる。尚、現在同時進行で化学合成細菌群衆によるpH改変のモデル解析にも取り組んでいる。平成23年度は上述の研究とは別に、植物プランクトン・バクテリアがリン・亜鉛・炭素の循環に与える影響について2本の論文を執筆、現在査読を経て再度投稿中の状態である。また、これらの研究成果について国内の学会で1件、その他セミナーで1件口頭発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先述の通り、当初の予定とは異なり化学合成細菌群衆ではなく植物プランクトン群衆を対象とし、植物プランクトンとpHとの相互作用系のモデル構築、解析を遂行した。対象は異なれど、モデル解析については順調に進展しており、現在論文を執筆中である。また、次年度からは計画書に記したとおり実証研究に踏み切るに至ったため、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は(1)植物プランクトン群衆-pH相互作用モデルの実証並びに海洋酸性化の将来予測、(2)化学合成細菌群衆-pH相互作用モデルの解析、の2つの課題に取り組む。植物プランクトン群衆-pH相互作用モデルの数理解析は既に終了しており、現在は理論的な論文を1本執筆中である。次年度はモデルの正当性を検証すべく、筑波大学下田臨海実験センターの和田茂樹氏に植物プランクトンの培養実験を依頼しており、うまくいけば7月にはモデルと実験結果の比較が可能となる見込みである。モデルの正当性が立証された場合、数値シミュレーションによる二酸化炭素濃度上昇に対する植物プランクトンとpH相互作用系の応答の将来予測に着手する。本結果は海洋酸性化予測について重要な知見をもたらすものとなりうるため、より一般的かつインパクトファクターの高い科学誌への投稿を目指したい。化学合成細菌群衆-pH相互作用系については現在化学合成細菌からpHへの影響が無い状態での物質循環モデルの構築並びに解析は終了している。現状化学合成細菌の進化過程は考慮していない。今後は化学合成細菌が化学反応を促進する際に間接的に酸の増加・減少に影響することで、系の振る舞いにどのような定性的な違いが現れるのかを検証していきたい。化学合成細菌群衆からのpHへの影響のモデル化とその影響解析は平成24年度中に完了させ、完了次第随時、化学合成細菌群衆に進化過程を導入した場合でのシミュレーション計算を進展させたい。本年度の研究費のうち17,996円の未使用額が生じた。これは、同金額で本研究関連の洋書の購入を予定していたが、取り寄せ期間が長引いたために本年度の研究費支払いの期限に間に合わなかったためである。未使用分は次年度の書籍購入分として充てる予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の研究成果を発信するために、平成24年度中に韓国・ノルウェー・アメリカで開催される3つの国際学会への参加を予定している。これらの学会の参加費・旅費として研究費を使用することを計画している。国内学会についても福岡で開催される地球化学会年会への参加を1件予定している。また、海洋酸性化による植物プランクトン-pH相互作用系の将来応答や化学合成細菌-pH相互作用系の物質循環動態をシミュレーションするために計算機を用いた大規模な演算が必要になることが予想されるため、Apple MacPro12コアの購入を検討している。それに伴い、シミュレーション結果の解析・可視化のために技術計算ソフトウェアMathematicaを同時に購入する予定である。現在執筆している論文は英文校閲を依頼する予定であるため、この校閲費についても研究費より支出する予定である。
|