2012 Fiscal Year Research-status Report
生物から環境への「反作用」に着目した生態学・地球化学・進化学的理論研究
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23770024
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
瀬戸 繭美 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (10512717)
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Keywords | 国際情報交換 / カナダ / University of Waterloo |
Research Abstract |
本研究では微生物群衆と物理化学的環境の相互作用を理論的に説明することを目指した数理モデル研究を展開する。今年度は特に(1)植物プランクトンとpHの相互作用モデル、(2)化学合成細菌と系の化学的エネルギー量の相互作用モデルの2つのモデルの解析を行い、国際学会で発表した。更に(3)光合成・従属栄養バクテリアと有機態炭素の相互作用に関する2つの数理モデル研究について2本の論文を発表した。 (1)について 当初は化学合成細菌とpHの相互作用に着目する予定であったが、二酸化炭素濃度上昇に伴う海洋酸性化に対する植物プランクトンとpHの相互作用の応答を知ることが急務であったため、対象を植物プランクトンに変更した。研究成果を2つの国際学会並びに1つの国内学会で発表し、現在論文執筆中である。また、共同研究者にモデル検証のための培養実験を依頼している。 (2)について 化学合成細菌と系の化学エネルギー量の相互作用モデルの解析を行い、化学合成細菌が系のエネルギー量に与える影響を理論的に考察し、地球化学分野で用いられる化学反応式のみで記述された「Energetic Model」では化学合成細菌の存在や増殖を予測するのに不十分であることを導いた。この結果について1つの国際学会で発表を行い、現在論文をGeomicrobiology Journal誌に投稿中である。また、本研究に関連する共同研究をUniversity of WaterlooのDr. Philippe Van Cappellenと開始した。 (3)について シアノバクテリアが湖沼で有機物を供給することで生じるレジームシフト現象に関する論文を執筆、Journal of Theoretical Biology誌に掲載された。海洋の微生物ループにおける溶存有機態炭素分解と微生物群衆の相互作用に関する論文を執筆、Chemosphere誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では化学合成細菌とpHの相互作用系に着目した数理モデル研究を推進する予定であった。しかしながら、植物プランクトンとpHの相互作用系の理解の性急な必要性を考慮し、研究対象を植物プランクトンに拡張し、現状微生物群衆と物理化学的環境の相互作用を理論的に説明することを目指している。 植物プランクトンとpHの相互作用系についてはモデル解析によりいくつかの重要な結果を得て、2つの国際学会で成果を発表することができた。 化学合成細菌群衆については特に系のエネルギー状態に着目した研究を行い、1つの国際学会で研究成果を発表、また、その発表内容を現在国際誌に投稿中の状態である。更に次年度よりDr. Philippe Van Cappellenとの共同研究により、特に鉄酸化・還元細菌に着目した微生物と鉄循環の相互作用系モデルの構築・解析を進める予定である。 加えて、光合成・従属栄養バクテリアと有機態炭素の相互作用に関する2本の論文を出版することができた。 上記の成果から、研究の目的はおおむね達成できていると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は1)植物プランクトンとpHの相互作用モデル、(2)化学合成細菌と系の化学的エネルギー量の相互作用モデルの発展と解析を主とした研究を推進すると共に、これまでの研究成果を国際誌で発表することを優先する。 1)について 共同研究者の培養が完了次第、統計解析によって実験データを用いたモデルの妥当性の検証を行う。モデルの妥当性が確認された暁には、ハイインパクトファクターの雑誌への投稿を目指す。モデルの妥当性が確認されなかった場合にはモデルの見直しを行い、最終年度中に論文を投稿する。 2)について 今後は化学合成細菌の中でも特に鉄酸化・還元細菌をターゲットとし、鉄酸化・還元細菌と鉄循環過程の相互作用系の理論研究を推進する。現時点で鉄酸化細菌による鉄酸化過程のモデル化・解析がほぼ完了しているので、研究成果の論文執筆完了を目標とする。次に鉄還元細菌による鉄還元過程のモデル化に取り組み、この2つを結合した鉄循環モデルの作成を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度中、申請時には予定していなかった国際学会での発表(International Society for Environmental Biogeochemistry)があり、当初予定していた設備備品購入のための資金をこちらに充てたため、一部に未使用の残金が生じた。この分は翌年度の計算用ソフトウェアの購入に充填したい。
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