2011 Fiscal Year Research-status Report
時を測る蛋白質KaiCに備わった分子内フィードバックの解明
Project/Area Number |
23770039
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
高井 直樹 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 助教 (80580018)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | シアノバクテリア / 概日時計 / KaiC / ATPase |
Research Abstract |
シアノバクテリアの時計蛋白質KaiCのATPase活性は概日リズムの周期を規定しており,反応温度を変化させてもほぼその活性は変化せず,概日時計の最大の特性である温度補償性を示す.本研究では,KaiCがいかにしてこの特性を獲得しているのかを調べるため,大腸菌において高純度なKaiC組換えタンパク質を精製し,KaiCのATPase活性が温度補償されている範囲を従来(25~35℃)よりもさらに広範囲に調べた.その結果,(1)KaiCは約20℃から45℃まで一定の活性を維持していることがわかった.また,ラジオアイソトープを用いた高分解能なATPase活性の測定系を開発し,氷温から高温に温度ジャンプした時のATPase活性の変動を調べたところ,(2)野生型KaiCではその活性は一過的に上昇するが一定の活性まで即座に抑制(負のフィードバック)されること,(3)周期の変異型KaiCではその固有の周期に応じて一定の活性に戻るまでの緩和速度が変化すること,(4)温度補償性を失った変異型KaiCではこの負のフィードバックが機能していないことがわかった.以上の結果から,KaiCは負のフィードバック機構を用いることによって,周期の温度補償性を獲得していることが示唆できた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
様々な生物において,ATPaseの存在が報告されているが,温度にその活性がほとんど影響を受けない特殊なATPaseとしてはKaiC以外には報告されていない.本研究ではKaiCのATPase活性がいかにして概日リズムの周期の温度補償性を規定しているかを明らかにしようと試みた.しかし,KaiCが一日に加水分解するATP量は一日当たり10~15分子程度で著しくその活性は低く,従来のHPLCを使った測定系では2時間単位での活性測定が限界だった.よって今年度は放射能でラベルされたATPから遊離のリン酸基を除去精製することによって,分単位でのKaiCのATPase活性の測定が可能な系を開発した.この高分解能な測定系を用いて野生型のKaiCの温度ジャンプ時のATPase活性の変動を調べたところ,KaiCは温度に応じて活性が一過的に上昇しても,一定の活性まで戻すための負のフィードバック機構が存在することを明らかした.さらに,平成24年度の計画であったが,前倒しして周期変異型KaiCの温度ジャンプ時のATPase活性の変動を測定した.その結果,周期変異型KaiCにおいても負のフィードバック機構が存在し,その緩和速度は周期の逆数(振動数)に比例する事がわかった.また,温度補償性変異型KaiCについても解析した結果,この変異体は負のフィードバック機構を失っている事がわかった.以上の結果から,KaiCは負のフィードバック機構を用いることによって概日時計の最大の特性である周期の温度補償性を獲得していることが示唆でき,一定の成果を達成できたと考えられる.また,これらの成果の一部を第18回日本時間生物学会学術大会において発表し,ポスター賞を受賞できた.
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Strategy for Future Research Activity |
KaiCはC1とC2という相同性の高い二つのドメインから構成されたダンベル状のサブユニットによりATP依存的に六量体を形成している.これまでの研究からC2ドメインのS431とT432が周期的にリン酸化されることがわかっているが,これらをアラニンに置換して脱リン酸化状態を模倣しても,ATPase活性は温度補償されているので,リン酸化が概日時計の温度補償性の本質ではないと考えられる.しかし,我々が同定した周期の温度補償性変異体はC2ドメインに集中しており,C2ドメインが温度補償性を維持するのに重要な可能性が考えられる.それに対して,C1ドメインはKaiCのATPase活性の8割程度を担っているのにも関わらず,多様な変異を加えても温度補償性にほとんど影響が無い.このことから,既知の結晶構造情報を参考にして,C2ドメインに変異を加えた際の温度ジャンプ時のATPase活性の挙動を調べていく.既に,一部の変異タンパク質精製用のプラスミドDNAは作製済みである.また,in vivoにおいて変異型のKaiCを発現させた際のデータも収集中であり,これらin vivoとin vitro両面のデータを統合した解析を進め,得られた成果を学術論文として発表する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前項でも述べたように,KaiCのATPase活性はRecA等の一般的なATPaseに比べて著しく低い.申請者は大腸菌から組換えタンパク質を精製しており,大腸菌の抽出物にはATPase活性を変化させるような様々な夾雑物が混在しているため,精製時に微量にでもこれらのコンタミネーションが起こると,見かけ上のATPase活性が変化する.そのため,FPLCを用いて,組換えタンパク質を高純度に精製する事が必須である.前年度は,これまでの所属研究室において精製してきた高純度な組換えタンパク質を用いて研究を進めることができた.今年度は所属機関が異動したこともあるので,周期や温度補償性の変異型KaiC蛋白質を精製するための機材,試薬,アイソトープの購入を申請する.幸いなことに,現所属機関には前所属機関に設置されていた機種と同等の性能を持つFPLCが設置されているので,速やかに研究を遂行できる.また,関連する分野への情報収集や研究成果の発表のための学会参加のための旅費,学術論文をまとめるための校閲および投稿費用を申請したい.
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Research Products
(2 results)