2011 Fiscal Year Research-status Report
植物の光受容体フィトクロムBのN末端領域が形成する光信号伝達複合体の生化学的解析
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23770048
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松下 智直 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 特任准教授 (20464399)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | フィトクロム / 光受容体 / 光形態形成 / シグナル伝達 / 環境応答 / 植物 / シロイヌナズナ |
Research Abstract |
植物の主要な光受容体であるフィトクロム蛋白質は、光受容に働くN末端領域と、キナーゼドメインを持つC末端領域の、2つの領域から成る。従来フィトクロムは、C末端領域内のキナーゼ活性により下流にシグナルを伝達すると信じられてきたが、我々の研究によりその「常識」が完全に覆され、フィトクロムのシグナル発信ドメインがC末端領域ではなくN末端領域であることが証明された(Matsushita et al., 2003)。 そこで本研究は、現在全く未知であるphyB N末端領域からの光シグナル伝達機構の本質を分子レベルで理解するために、phyB N末端領域から直接光シグナルを受け取る新奇下流因子を生化学的な手法で同定することを目的とする。 本年度我々は、phyBのN末端領域から直接光シグナルを受け取る光シグナル伝達因子を同定するために、phyBのN末端領域と物理的に相互作用する蛋白質を生化学的手法により同定することを試みた。これまでに、同様の実験は複数の研究室で試みられてきたが、思うような成果は上がっていない。その理由は、活性型フィトクロム分子の立体構造が不安定であり、下流因子との結合が一過的であるためだと考えられる。そこで我々は、phyBの立体構造を恒常的に活性型へと固定するアミノ酸置換変異Y276H(Su and Lagarias, 2007)を導入することで、下流因子との結合を安定化させ、上記問題を解決した。そして解析を進めた結果、活性型のphyB N末端領域に特異的に結合する因子として、スプライシング関連の因子が複数同定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年交付申請書において、「タグ配列を付けたphyBのN末端領域に、その立体構造を恒常的に活性型へと固定するミスセンス変異Y276Hもしくは、発色団との結合能を失わせ立体構造を不活性型へと固定するC357A変異を導入し、それぞれシロイヌナズナのphyB変異体において過剰発現させる。下流因子との結合が、Y276H変異では安定化され強固なものとなり、一方C357A変異では完全に失われると考えられる。上記形質転換植物のそれぞれから、タグ配列を利用してphyB N末端領域を含む複合体を精製し、質量分析によりその構成因子を解析し、両者を比較する。ここで、Y276H変異導入系統でのみ検出される因子は、活性型のphyB N末端領域に特異的に結合する因子の候補であると考えられる。これまでに、Y276H変異もしくはC357A変異を導入したphyB N末端領域を過剰発現する形質転換シロイヌナズナを既に作製済みであり、期待通り、phyB N末端領域のシグナル伝達活性が、Y276H変異によって光の有無に関わらず恒常的に活性化される一方で、C357A変異によっては完全に失われることが確認できている。この結果から、これらの形質転換植物が、活性型のphyB N末端領域と特異的に相互作用する因子の単離に有用であることが示される。」と記入した。そして本年度において、これらの内容の実験を行い、「研究実績の概要」欄に記載の成果を得た。従って、本研究の現在までの達成度は、概ね順調であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に同定された候補因子に対し、高い蛋白質発現量が短時間で得られ、かつ高い遺伝子導入効率を示す、Nicotiana benthamianaへのAgro-infiltrationの系を用いて、pull down法およびBiFC法により、in vivoにおけるphyB N末端領域との光依存的相互作用を検証する。 さらに、phyB N末端領域との光依存的相互作用の検証が済んだものについて、シロイヌナズナにおいて遺伝子破壊系統や過剰発現体を取得・作製し、厳密な光生理学的表現型解析を行う。そして、赤色光条件における胚軸伸長抑制など、phyBによって制御される光応答に異常が見られないか調べることにより、その生理機能がphyBシグナル伝達に直接関与することを確かめる。 この選抜を通過したものは、phyB N末端領域から直接光シグナルを受け取る因子である可能性が考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
Nicotiana benthamianaへのAgro-infiltrationの系やpull down法およびBiFC法を行うために、基本試薬、分子生物学用キット、生化学用キット、プラスチック消耗品などを購入する。また、シロイヌナズナにおいて遺伝子破壊系統や過剰発現体を取得・作製し、厳密な光生理学的表現型解析を行うために、植物栽培用のプレートや鉢などの消耗品を購入する。さらに、BiFC法において、蛍光顕微鏡用のデジタルカメラシステムが必要となるため、その購入を検討している。また、現在のテニュアトラックポジションには学生受入のためのルートが正式には設けられておらず、マンパワーの点で充分な国際的競争力を得るためには、テクニシャンやアルバイトの雇用が不可欠であるため、アルバイト1名を雇用し、研究の加速を図る。
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Research Products
(12 results)