2011 Fiscal Year Research-status Report
北太平洋産クサウオ科魚類の系統地理学~爆発的種分化の要因と種多様性の解明
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23770085
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
甲斐 嘉晃 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 助教 (30379036)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 多様性 / 系統地理 / 種分化 / 分類 |
Research Abstract |
本研究では,遺伝的情報を用いて(1)系統地理学的視点から北太平洋のクサウオ科魚類の地理的分化とその歴史を明らかにし,爆発的種分化の要因を推定すること,(2)分類学的な整理を行い,その多様性を正確に把握すること,を目的としている.平成23年度には,主に日本海から得られたクサウオ科コンニャクウオ属の1新種の分類学的研究と,オホーツク海・日本海・太平洋に広く分布するスイショウウオ属のアバチャンに関する系統地理学的研究を行った. 日本海から得られたコンニャクウオ属の1新種は,背鰭・臀鰭が黒く縁取られること,計測形質などでヒレグロコンニャクウオやヒメコンニャクウオに似るが,頭部感覚孔の状態,歯の状態,体色などにより明瞭に区別できた.この種は,過去に報告されたことがなく,新種であることが明らかとなり,ノトサイカイビクニンCareproctus notosaikaiensisと言う和名・学名を与えて論文として発表した.なお,論文を公表した当時は石川県能登半島の西岸沖からのみ記録されていたが,その後の研究で日本海の南西部に広く分布している可能性が出てきている. スイショウウオ属のアバチャンについては,オホーツク海,日本海,他愛併用から広くサンプルを収集し,形態学的・遺伝学的分析を併用して系統地理学的研究を行った.特に能登半島以南の日本海南西部の集団は体色に黄色い筋状の模様を持っており,赤く丸い斑紋を持つ他海域の集団から明瞭に区別できる事が明らかとなった.ところが,遺伝的にはオホーツク海・太平洋・日本海の3集団に大きく分かれ,必ずしも日本海南西部のみが異質な集団を形成しているわけではないという結果が得られた.形態と遺伝的分析における結果の不一致は過去の分断とその後の二次的接触などが複雑に絡んでいる可能性があり今後核ゲノムの分析を進める予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
標本採集,遺伝的分析,形態的分析で本年度に予定していたものは概ね達成できた.東日本大震災の影響で東北太平洋側のサンプリングがやや困難となったが,23年度後半には十分にサンプリングでき,24年度以降の研究も順調に進むことが期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
分析対象となる標本の採集は予定通りほぼ終わっており,今後は必要に応じて各博物館などに保管されている標本の調査なども行う.遺伝的分析においては,アバチャンを対象種として核ゲノムの分析も進め,より詳細な系統地理学的データを得ていく予定である.その他,北太平洋に広く分布するアラスカビクニンの解析を開始する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度のサンプリングについては東日本大震災の影響により予定していたよりも少ない回数で行ったため,当初の予定よりも旅費が少なく,次年度に残すこととなった.24年度は,北太平洋に広く分布するアラスカビクニンの分析を始めるにあたり,海外の博物館への訪問が必要となるため,23年度の繰越額はここにかかる旅費などにあわせて計上する.国内のサンプリングはほぼ終了しており,あとは遺伝的・形態的分析のための消耗品の費用に充てる予定である.
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