2012 Fiscal Year Research-status Report
特異な性の維持機構とその進化-全く新しい性表現を持つ植物からのアプローチ
Project/Area Number |
23770100
|
Research Institution | The Museum of Nature and Human Activities, Hyogo |
Principal Investigator |
布施 静香 兵庫県立人と自然の博物館, その他部局等, 研究員 (30344386)
|
Keywords | 進化 / 雄性両性異株 / 性表現 |
Research Abstract |
多くの植物は,単一個体に雌雄を備えた「雌雄同株」あるいはどちらか一方の性しかない「雌雄異株」から集団が構成されており,雌株と両性株から集団が構成される「雌性両性異株」も珍しくない。一方,雄株と両性株から集団が構成される「雄性両性異株」は,わずかな種からしか報告されていない非常に稀な性型である。 初年度の調査により,ミカン科のカラスザンショウとその近縁種であるイヌザンショウは,雄性両性異株性を示すことが明らかになった。しかも,カラスザンショウ・イヌザンショウともに両性株の個体は雄花と雌花が同時につくのではなく,雄花が散った後に雌花が咲くといった性の時間的変化を示す事が明らかになった。 そこで今年度は,オス個体と両性個体の繁殖成功度の比較を行うため,花粉稔性の調査と父系解析のための人工交配実験を実施した。その結果,前者の花粉稔性調査ではオス個体の雄花・両性個体の雄花のいずれも高い花粉稔性を示す事が明らかになった。また,後者の人工交配実験では,オス個体由来の花粉で結実した種子,両性個体由来の花粉で結実した種子,そして両個体の花粉の混合により結実した種子が得られた。得られた種子は父親推定のためマイクロサテライト解析用として採取した。マイクロサテライトマーカーについては,今回調査している集団で使用可能かどうかを知るためにマーカーのスクリーニングを実施した。さらに,送粉昆虫が繁殖成功に関わっている可能性があるため,訪花昆虫の種類と行動を(1)オス個体の雄花,(2)両性個体の雄花,(3)両性個体の雌花に分け,野外で実際に起こっている受粉システムについて調査した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の野外調査の結果に基づいて、計画通りオス個体と両性個体の繁殖成功度の比較調査を実施した。さらに訪花昆虫の種類と行動の調査を加えた。それらの調査によって、カラスザンショウの雄性両性異株性の実態を把握するための基盤的データを集積することができた。父系解析用の種子サンプルを得るための人工授粉実験については、カラスザンショウの花序の形状や開花特性を考慮して、複数の実験手法を並行して実施した。その結果、いくつかの手法については有効とは言えないことが分かった。複数の実験手法を用いたことで、得られた種子サンプル数は予定よりもやや少量となった。よって、評価としては上記区分となる。
|
Strategy for Future Research Activity |
カラスザンショウの種子を用いた父系推定を行って雄株と両性株の繁殖成功度の比較を行い、雄性両性異株性の進化や維持機構の解明に取り組む。また、カラスザンショウとイヌザンショウの雄性両性異株性の安定性評価、性比の地理的変異を明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は人工交配実験に複数の手法を用いざるを得なかった事、訪花昆虫調査を加える必要があった事、申請者が産休を取得した事から、マイクロサテライト解析の主たる実験を次年度に実施することとした。そのため、本年度使用予定だった研究費の一部を次年度に請求する研究費と合わせて、本課題研究を推進する。
|