2011 Fiscal Year Research-status Report
種子貯蔵タンパク質遺伝子銀行を利用した人工合成タンパク質による小麦粉品質評価
Project/Area Number |
23780004
|
Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
田中 裕之 鳥取大学, 農学部, 准教授 (70283976)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 品質・成分 |
Research Abstract |
小麦粉生地特有の粘弾性には種子貯蔵タンパク質が深く関わっている。そのうちパンコムギでは、高分子量グルテニンサブユニット(HMW-GS)の1遺伝子座に各1個のxタイプとyタイプ遺伝子が密に連鎖して存在するため、これまで分子種別に生地強度評価を行うことが難しかった。そこで本研究では、単一分子種の種子貯蔵タンパク質が生地強度におよぼす効果を調べる方法の確立を目指した。 まず、コムギ近縁種Thinopyrum elongatumに由来し、小麦粉生地を強くする効果のある高分子量グルテニンサブユニット(HMW-GS)に着目した。2次元電気泳動(2DE)でこのタンパク質を分離した結果、xタイプが1スポット、yタイプでは分子量が同じで等電点(pI)が塩基性側の5つのスポットが検出できた。 HMW-GS遺伝子の完全長を増幅できるようにデザインしたプライマーを用いて、Th. elongatum由来HMW-GS遺伝子をクローニングした結果、偽遺伝子を含む3種類のxタイプ遺伝子と6種類のyタイプ遺伝子が得られた。また、yタイプで見られた複数のスポットは、非同義置換によるpIの変化が原因であることが示唆された。さらに、yタイプ遺伝子中にみられた水素結合を強化する構造は、グルテニンサブユニットの分子間ネットワークからなる生地の強さに関与すると考えられた。 クローニングした遺伝子について、コムギ無細胞タンパク質合成法によるタンパク質の人工合成を試みた結果、yタイプ遺伝子の1種類について、人工合成タンパク質を得ることができた。 人工合成タンパク質を小麦粉に添加して高精度に品質評価するため、種子貯蔵タンパク質の無い小麦粉ができる系統の育成を目指した。本年度は、染色体欠失部位の違いにより種子貯蔵タンパク質の種類が減少した系統を互いに交配させた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
需要の高まる製パン用に適した小麦粉生地を強くする効果のある高分子量グルテニンサブユニット(HMW-GS)をもつコムギ近縁種Thinopyrum elongatumに着目し、その遺伝子をクローニングすることができた。計画当初では、より多くの品種・系統がもつ種子貯蔵タンパク質遺伝子をクローニングする予定であったので、現在、継続して試みている。 人工合成タンパク質の作製では、計画当初の大腸菌の系ではなく、無細胞合成系を用いたことで、迅速・簡便に人工合成タンパク質を得ることができた。 種子貯蔵タンパク質の無い小麦粉ができる系統の育成では、予定通り交配し、雑種種子を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
パンコムギとその近縁野生種がもつ種子貯蔵タンパク質遺伝子の完全長クローニングを継続して行う。既にクローニング済みの遺伝子については、人工合成タンパク質を作製する。その際、無細胞合成系と並行して、大腸菌やタバコを宿主とした合成系も試み、転写・翻訳後修飾の有無を調査する。 作製した人工合成タンパク質は、現在育成中の種子貯蔵タンパク質の無い小麦粉ができる系統に添加して、小麦粉品質を評価する予定である。また、その系統育成が完了するまでの間、市販の小麦デンプンに人工合成タンパク質を添加したものを仮想小麦粉として品質評価を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
消耗品費として、遺伝子クローニング用試薬、タンパク質精製用試薬、小麦粉品質評価用試薬、植物栽培用道具・肥料、ガラス・プラ器具に使用する。成果発表のための学会参加として、国内旅費では、育種学会(京都・東京)への参加を予定している。外国旅費では、AACC International Annual Meeting(米国フロリダ州)へ参加すると共に、米国の研究協力者との打ち合わせを予定している。謝金等として、論文の英文校閲を予定している。その他として、学会誌投稿料、学会参加費、報告書等の印刷費を予定している。
|