2011 Fiscal Year Research-status Report
疫病菌耐性ジャガイモの創出を目指したナス科植物の疫病菌抵抗性因子の探索と機能解析
Project/Area Number |
23780041
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
竹本 大吾 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30456587)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 植物病理学 |
Research Abstract |
ベンサミアナタバコの防御応答時に誘導される遺伝子をランダムにサイレンシングした株の作出を行い、ジャガイモ疫病菌抵抗性の低下する株の選抜を行った。現在までに約2000株のスクリーニングを行い、63株の疫病菌抵抗性低下株を単離し、26種の新規な疫病菌抵抗性に必須な遺伝子を同定した。単離された遺伝子には、これまでに疫病菌抵抗性因子として報告のない、転写制御因子・細胞内シグナル伝達因子・抗菌化合物生合成因子などをコードする遺伝子や機能解析の報告例のない遺伝子が多く含まれていた。 小胞体でのタンパク質の成熟化に関与すると予想されるCRT3遺伝子の解析を進めた。CRT3サイレンシング株では疫病菌由来の複数のエリシター物質への応答性が低下しており、抗菌物質の蓄積誘導、活性酸素生成誘導などの防御応答の誘導が抑制されていた。この結果から、CRT3が疫病菌由来のエリシターを認識するレセプターの成熟化に関与する可能性が示唆された。また機能未知の分泌タンパク質SAR8.2mをコードする遺伝子の機能解析を行った。SAR8.2mサイレンシング株では、防御応答の活性化の遅延が認められたことから、この分泌タンパク質が、病原菌に直接攻撃を受けた細胞が近隣細胞へシグナルを伝えるためのシグナルペプチドとして機能している可能性が示された。さらに今年度、新たに単離された核膜孔複合体構成因子であるNUP75をコードする遺伝子の解析を行った。NUP75サイレンシング株では、エリシターの処理によって誘導されるエチレン合成が抑制されており、ファイトアレキシンの生成量も顕著に低下していた。ベンサミアナタバコのファイトアレキシン生成はエチレン情報伝達を介して誘導されることから、NUP75はエチレン生成を誘導する因子の核膜孔での輸送に重要な役割を担っており、ファイトアレキシンの生成誘導に必須な因子であることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ベンサミアナタバコの疫病菌抵抗性因子の網羅的探索を目指している。本年度は、研究計画で機能解析の対象として示したCRT3遺伝子が疫病菌の認識に関わるレセプターの成熟化に関わる可能性が高いこと、SAR8.2m遺伝子の機能が病原菌を認識した後の近隣細胞へのシグナルを発生である可能性が高いことを示すことができ、今後の更なる詳細な機能解析への足がかりが得られた。また新規の疫病菌抵抗性に関連する遺伝子も多数単離することに成功し、全体として本プロジェクトの最終目標である、ナス科植物の疫病菌抵抗性の全容解明に大きな進展がみられた。このことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、引き続き新規の疫病菌抵抗性に関連する遺伝子を単離するためのスクリーニングを継続する。また、今年度において機能解析が進んだCRT3、SAR8.2mの詳細な解析をさらに進める。CRT3に関しては、疫病菌の認識に関わる受容体の成熟化に関与することを示すため、エリシターの認識に関わるレセプターの探索を行う。これまでの結果から、ベンサミアナタバコの疫病菌認識にはeLRR型レセプターが関与している可能性が高いと考えている。最近、ベンサミアナタバコのゲノム配列のドラフトが公開された。そこで現在、ゲノム中のeLRR型レセプター遺伝子群の構造を解析している。eLRR型レセプター遺伝子群を系統解析することで、複数のレセプター遺伝子を同時にサイレンシングする実験系を構築し、抵抗性に関与するレセプターの探索を行う予定である。 また SAR8.2mの抵抗性誘導シグナルペプチドとしての機能をより詳細に解析するために、現在、ファイトアレキシン合成遺伝子EASプロモーターあるいはPR1プロモーターとレポーター遺伝子(GUS)を連結したコンストラクトを導入した形質転換ベンサミアナタバコの作出を進めている。この形質転換体でSAR8.2mをサイレンシングし、疫病菌が感染した細胞の近隣細胞での抵抗性関連遺伝子の発現分布を対照株と比較することで、SAR8.2mのシグナルペプチドとしての機能をより明確に証明したいと考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
来年度の実験では、植物の育成、病原菌の培養、分子生物学的手法を用いるための試薬などの購入が必要であるが、実験設備の追加購入は必要ないので、研究費は主に消耗品の購入に充てる。また、国内学会での研究発表および情報収集のための旅費、国際誌での論文発表のための出版費を支出する予定である。
|