2012 Fiscal Year Research-status Report
ガ類害虫の音響行動と聴覚特性:超音波を使った行動制御技術の開発を目指して
Project/Area Number |
23780053
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Research Institution | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
Principal Investigator |
中野 亮 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹研究所 品種育成・病害虫研究領域, 任期付研究員 (90546772)
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Keywords | 害虫防除 / 超音波 / チョウ目 / 音響交信 / 産卵行動 / 交尾行動 |
Research Abstract |
モモ、クリ果実の主要害虫であるモモノゴマダラノメイガ(以下、本種)の種内音響交信における、発音の機能の全容を明らかにするとともに、本種が発する超音波を模倣した防除技術の開発に向けた基礎的な知見を得た。昨年度の研究にて、オスが求愛時に音圧の大きい超音波を発し、このうち後半部に発せられる100 ms以上の長いパルスがメスの交尾受入れ行動を引き起こすことを解明している。しかしながら、25 msの短いパルスから構成される前半部の機能は分かっていなかった。今年度は、主にこの短いパルスの機能解析と本種の聴神経の細胞外記録、およびレーザードップラー振動計を用いた鼓膜の振動計測をおこなった。 合成音を用いた行動実験により、前半部に発せられる25 msの短いパルスが、周囲にいる他個体のオス、すなわち交尾の競合相手に対し、忌避的に作用することを突き止めた。オスがメスへの求愛の前半で短いパルスを発することで、他のオスが接近するのを阻害していたのである。これにより、他のオスからの干渉を受けずに円滑に交尾に至ることができる。そこで、短いパルスが持つ忌避行動を利用して、本種の飛来を抑止する技術の開発を試みた。実験室内に風洞を設置し、風上に合成性フェロモンもしくは産卵基質(リンゴ果実)を置くことで、本種のオスもしくは既交尾メスによる定位飛翔を再現した。ここで、オスが発する超音波の合成音を提示し、飛来を阻害する音の特性を調査した。その結果、25 msまたはそれよりも短いパルスに対し、オス・メスともに飛来を抑制することができた。 行動制御に有用な音の時間構造については上記の知見を得ることができた。一方、周波数に関しては未知である。そこで、聴神経応答および鼓膜の振動特性の観点から、本種が感受しやすい音の周波数を明らかにした。聴神経、鼓膜はともに、50~100 kHzの高い周波数の音に敏感であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は、行動試験は平成25年度(研究計画最終年度)に実施する計画であった。しかしながら、オスが発する短いパルスの忌避効果を確認できたことに付随し、交尾阻害と産卵阻害に関する行動試験にて、飛来の阻害を予定よりも先に実証することができた。以上のように、現在までの達成度としては、当初の計画以上に研究を進展させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、聴神経の細胞外記録を中心におこなう。これにより、本種が感受しやすく、かつ慣れが生じにくい音の時間構造(パルスおよびパルス間の長さ)を神経レベルで解明することができる。具体的には、感受しやすいことが分かっている周波数50 kHzのパルスを用い、持続時間が1~10 ms(1 msステップ)、15~50 ms(5 msステップ)、60~100 ms(10 msステップ)のパルスを提示し、聴神経が応答する音圧の閾値を明らかにする。また、聴神経が応答しやすいパルス長および周波数50 kHzの音を用い、パルス間間隔が0~1 ms(0.2 msステップ)、2~10 ms(1 msステップ)、15~50 ms(5 msステップ)のパルスを提示する。これにより、聴神経に慣れを生じさせにくいパルス間間隔を明らかにする。 上記、神経レベルで感受しやすい音の時間構造について、さらに、鼓膜の振動パターンおよび交尾・産卵時の定位飛翔の阻害効果の側面から、整合性を確認する計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初、レーザードップラー振動計の使用は平成24年度のみであったが、上記「今後の研究の推進方策」の通り、平成25年度も引き続き使用したいと考えている。レーザードップラー振動計はリースにて使用するため、前年度繰越分をこれに充当する予定である。また、現在執筆中の原著論文の英文校正や投稿料、学会参加費等を中心に、平成25年度は研究費を使用する計画である。
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Research Products
(11 results)