2011 Fiscal Year Research-status Report
リパーゼ超誘導制御機構の解明と高界面活性作用蛋白質の機能解析
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23780090
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
赤沼 元気 中央大学, 理工学部, 助教 (30580063)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | リパーゼ / 分泌蛋白質 / プロテオーム / 遺伝子発現制御 |
Research Abstract |
研究対象としているPseudomonas sp. NT-80(NT80)は、リパーゼ遺伝子等の一部の配列を除き、塩基配列情報が不明だった。そこで、網羅的解析も含めて可能にするため、NT80ゲノムの全塩基配列の解読を試みた。全てのコンティグ連結には至らなかったが、このゲノム情報を活用し、分泌蛋白質のプロテオーム解析を行った。ステアリルアルコールによる誘導時と非誘導時の培養上清に含まれる蛋白質を比較した結果、P15を含む複数の蛋白質が誘導時特異的に同定された。これらの蛋白質には特殊な蛋白質分泌システムの存在を示唆するものも含まれており、リパーゼ分泌との関連も期待される。P15遺伝子破壊株では、培養上清におけるリパーゼ活性が野生株の1/10程度まで低下することが分かっていたので、リパーゼの転写量、分泌量をそれぞれモニターし、どちらも破壊株で著しく低下していることを確認した。P15遺伝子破壊株ゲノムの別領域にP15遺伝子を相補した場合、これらの表現型は全て野生株と同等まで回復したことから、P15がステアリルアルコールによるリパーゼ誘導に転写の段階から関与していることが判明した。 一方、粗精製P15には油分乳化作用が観察されていたため、精製P15蛋白質の界面活性作用を測定した。界面活性剤であるTween80を2 micro M添加した場合、水の表面張力(72 mN/m)が58 mN/mまで低下した。これと比較して、P15蛋白質を同濃度添加した場合、その表面張力は28 mN/mまで低下した。ステアリルアルコールは難溶性であり、徐々に培地中で乳化する。72時間培養した野生株の培養上清は比較的透明であるのに対し、P15遺伝子破壊株の培養上清は白濁したままであった。これらの観察結果から、P15蛋白質がステアリルアルコールの分解、取り込みに関与している可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請書では具体的な検討課題として、以下の4点を挙げているが、どの項目においても本年度の研究計画を上回る進展が認められる。1.ステアリルアルコールによるリパーゼ誘導の作用点決定;誘導時のリパーゼ転写量を定量PCRでモニターし、非誘導時と比較して200倍もの転写量向上が観察された。分泌効率については、細胞内の転写、翻訳を阻害した状態で誘導剤を添加し、細胞内外のリパーゼ活性及び蛋白質量をモニターしたが、分泌量の向上は認められなかった。転写量、培養上清リパーゼ活性、蛋白質量に相関が認められるため、転写の段階が最も重要であると考えられる。2.リパーゼ誘導に関与する因子の同定;誘導時特異的に分泌される蛋白質を培養上清のプロテオーム解析により複数同定した。この中には特殊な分泌装置の存在を示す蛋白質も含まれており、リパーゼ分泌との関与も期待される。一方で、他種リパーゼの転写促進因子であるLipRホモログを検索し、それら5種それぞれの遺伝子破壊株作製を試みており、現段階でリパーゼの発現量が低下する破壊株を1種見出している。また、リパーゼ遺伝子の転写開始点を同定し、その上流に見出された逆向き反復配列に変異を導入することでリパーゼの転写量が低下することを確認した。3.P15蛋白質のリパーゼ発現誘導への関与解明;P15破壊株のリパーゼ活性、転写量、蛋白質量をモニターし、P15がリパーゼの転写誘導に関与していることを確認した。4.P15蛋白質の界面活性作用と機能解析;P15蛋白質を精製し、水の表面張力を低下させる作用を観察したところ、他の界面活性剤と比較しても極めて高い界面活性作用をP15蛋白質が有していることが明らかになった。P15破壊株ではステアリルアルコールによる培養上清の白濁が培養後も解消されないことから、P15がステアリルアルコールの取り込み、分解に関与している可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
P15がステアリルアルコールの取り込み、分解に関与している可能性が示唆されたため、まずこの点について追及する。NT80野生株がステアリルアルコールを栄養分として利用できる一方、P15破壊株では利用できない可能性もあるため、破壊株と野生株におけるステアリルアルコール添加時の生育を観察する。できれば、C源を制限した最少培地での生育比較を行う。また、精製P15蛋白質を培地に添加することでリパーゼ発現が促進されるかについても検証する。さらに、野生株とP15破壊株の培養上清成分の解析も併せて行う。P15破壊株では分泌される蛋白質の構成にも変化が生じるものと考えられるため、野生株との培養上清蛋白質の比較を予定している。一方、P15蛋白質において界面活性作用に重要な残基を決定するため、変異型P15を精製し、変異と界面活性作用の関係について検討する。リパーゼ遺伝子の転写因子については、引き続きLipRホモログの遺伝子破壊株作製を行い、リパーゼ転写への影響を比較する。最も影響が大きかったLipRホモログについては蛋白質を精製し、リパーゼ遺伝子上流に見出された逆向き反復配列への結合をEMSAで観察する。プロテオーム解析でステアリルアルコールによるリパーゼ誘導時特異的に同定された蛋白質について、順次破壊株を作製し、リパーゼ発現への影響を調べる。また、リパーゼを分泌するための複合体探索のため、膜蛋白質のプロテオーム解析を行い、可能性の考えられる遺伝子から破壊株を作製する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度に購入予定だったブロッティング装置は既存のもので対応した。また、定量RT-PCR解析関連の試薬購入のための予算がやや低く収まったため、若干の繰越金が生じた。これを考慮した上で以下の研究費使用計画を立てた。設備備品費;実験頻度等を考慮し、二次元電気泳動槽、ウエスタンブロット解析の際に必要となるブロッティング装置を新たに購入する。購入費用はそれぞれ200千円、105千円を予定。消耗品等;定量RT-PCR解析に必要となる試薬は1セットで90千円となり、年間3セット程度必要であると考え、270千円と見積った。また、ドライストリップ、2D-Cleanup Kit、2D-Quant Kit、脂質分解酵素等の二次元電気泳動関連の消耗品購入の予算として500千円を計上した。さらに、P15の界面活性作用評価のための表面張力測定器のレンタル費として200千円を予定している。その他の試薬購入予算として350千円を、プライマー合成及び塩基配列解析の予算として200千円を考えている。旅費等;日本農芸化学会大会に参加し、成果を発表するための旅費として年間60千円を、研究成果の論文投稿料として年間100千円を計上した。
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