2011 Fiscal Year Research-status Report
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23780164
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
岩永 史子 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 学術研究員 (50548683)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 外来種 / 乾燥地河畔林 / 耐塩性 / 浸透調整 |
Research Abstract |
外来植物種の侵入による生態系の攪乱と生物多様性の低下は、近年、世界各地で大きな環境問題として認識されるようになった。本研究課題では、アメリカ西部乾燥地のコロラド川河畔域に生育するタマリスク種に注目し、特に原産地と導入地の間に認められる生育特性および浸透調整能の比較を通じて乾燥耐性・塩耐性の違いについて検討する。23年度は、タマリスク種の葉内浸透調整物質濃度の解析を中国西部乾燥地(原産地)とアメリカ西部乾燥地(導入地)の2地点で採取したサンプルを用いて行い、それぞれの調査プロット間に見られる環境条件との関連性について検討した。 アメリカ西部のサンプルについては前年度までにサンプル採取を終了しており、23年度は分析、データの解析および論文作成を行った。中国乾燥地のサンプルは2011年8月25-27日に新疆ウイグル自治区アイディン湖周辺に生育するタマリクス群落にて採取した。アイディン湖から北方向に3地点のタマリスク群落からランダムに8個体を選び、葉の採取および樹冠下の土壌サンプルを採取した。 これらの結果、中国西部に生育するタマリスクは土壌の高塩濃度、低水分含量に対して高い耐性を有することが示された。調査区間で土壌含水率は大きく変化しなかったが、土壌中の陽イオン濃度は有意に変化した。一方で、葉内Na濃度は調査地2で他の調査地よりも高く、Na:K比およびNa:Ca比も同様に高かった。葉内の糖およびベタイン濃度は調査地2で他の調査地よりも高い値を示し、土壌環境の変化に起因する葉内のイオンバランスの変化と相関を示した。 2009年に米国で行われた同様の調査では、ベタインや糖濃度の明らかな変化が認められなかったことから、タマリスク種の浸透調整が生育地によって異なる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本申請計画は、タマリスクが原産地と導入地との間に示す生態的挙動を、生理的要因のうち特に適合溶質という多様なストレス耐性獲得に必須な物質の蓄積能から明らかにしようとするものである。具体的には以下の3課題を設定した。課題1.侵入地および自生地での生態的調査による適合溶質の定性定量解析:22-23年度の生態的調査を通じて、各生育地のタマリスク葉内に蓄積した適合溶質および土壌条件の解析に用いる試料採取を行うことができた。しかし、これら採集試料の一部は分析を終了することができなかった。課題2および課題3.適合溶質蓄積と植物体の生理活性維持との関係、それらの部位・器官ごとの適合溶質蓄積アメリカ西部および中国西部に生育するタマリスクの苗木を用いた栽培実験の成長観察を行い、適合溶質解析用の試料採取を行うことができた。これら採集試料も一部を除いて解析を終了することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
<課題1>侵入地および自生地での生態的調査による適合溶質の定性定量解析:引き続き、前年度までに得られたサンプルの解析を行う。植物サンプルおよび土壌サンプルの塩蓄積状況を原子吸光分析法および炎光分析法によって解析する。植物組織内の適合溶質蓄積量をキャピラリー電気泳動法およびポストカラム蛍光分析法により行い、高塩濃度環境に蓄積される適合溶質の特定を行う。<課題2>適合溶質蓄積と植物体の生理活性維持との関係:前年度までに得られた環境条件および解析条件に従って、タマリスクポット苗のストレス期間中~回復期の成長および生理活性の解析を行う。葉・根の適合溶質分析を塩処理前・処理後で解析する。器官別の浸透ポテンシャルを測定し、適合溶質との相関を解析する。これにより急性の塩ストレスに対する適合溶質の蓄積と生理活性維持との関わりについて考察する。ここで必要とされる氷点降下法オスモメーターは乾燥地研究センター生理生態学分野の設備品であり、本研究室の協力を得て測定を行う。<課題3>部位・器官ごとの適合溶質蓄積とNa+移動および形態的適応との関係:タマリスクの砂耕ポット苗を用いて長期の塩処理を行い、慢性の塩ストレスに対する適合溶質蓄積の量的変動とその蓄積部位を明らかに塩ストレス条件下の適合溶質蓄積量の解析に必要なサンプル量が得られる処理条件の設定を精査する。根および葉の構造観察に適切な環境条件を設定し、同時に塩あるいは乾燥ストレス条件下で生育した個体の組織構造観察に適切な解析条件を決定する。ここで必要な蛍光顕微鏡、および走査型電子顕微鏡は乾燥地研究センターの共通設備であり、使用可能である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題の遂行に必要不可欠な解析機器が、鳥取大学農学部および乾燥地研究センターの共同利用機器であるため、移動のための国内旅費を計上する。解析にあたっては、ランニングコストが高価な機材を頻繁に利用することが予想されるため、試薬、及びプラスチック器具にかかる費用を計上する。また、研究成果を公表するための国内および海外旅費と、投稿論文の作成(英文校閲・別刷り)に必要な費用を計上する。
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