2012 Fiscal Year Research-status Report
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23780164
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
岩永 史子 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 学術研究員 (50548683)
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Keywords | 外来種 / 乾燥地河畔林 / 耐塩性 / 浸透調整 |
Research Abstract |
外来植物種の侵入による生態系撹乱と生物多様性の低下は、世界各地で大きな環境問題として認識されるようになった。本研究課題ではアメリカ西部・乾燥地河畔林に生育するタマリスクに注目し、生育特性および浸透調整能の解析を通じて乾燥耐性・塩耐性特性の検討を行うことを目的としている。本年度はアメリカ西部に位置するモハベ砂漠およびその周辺に生育する乾燥地植物の浸透調整物質について網羅的解析を行った。多数ある浸透調整物質のうち多くの菌類・動植物で蓄積がみられるベタイン類を特異的に蓄積する植物種を特定した。またモハベ砂漠を貫流するコロラド川河畔に生育する外来種タマリスク(中国原産塩生植物)、および在来種(4種)の浸透調整物質について、季節的・時間的変動の解析を行った。これらの結果、アメリカ西部に生育するタマリスクは他の在来種と比較して、低い葉内Na+:K+比を維持していた。林冠下の土壌Na+濃度はタマリスクで最も高くなっており、葉に塩腺を有するタマリスクによって樹冠下のNa濃度が上昇するという既存の研究報告と一致した。一方で、気温の最も高くなる夏季(7―8月)において、土壌相対含水量の低下が認められた。タマリスクの落葉期に土壌Na+濃度の上昇が認められたが、他の在来種でNa+濃度の変動は認められなかった。在来種3種の葉内および土壌Na+濃度に明らかな相関は認められなかった。夏季におけるベタイン類の葉内蓄積はタマリスクで認められず、在来種のアカザ科3種において顕著な蓄積が認められた。これらの結果から、慢性的に乾燥・高塩濃度ストレスに晒されている植物では浸透調整物質の変動がほとんど現れないということを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題はタマリスクが原産地と侵入地との間にしめす生態的挙動を生理的要因のうち、特に適合溶質という多様なストレス耐性獲得に必須な物質の蓄積能から明らかにしようとするものである。具体的には以下の3課題からなる。 <課題1>侵入地および自生地での生態調査による適合溶質の定性定量解析: 昨年度までに行った生態調査を通じて、各生育地のタマリスク葉内に蓄積した適合溶質、および土壌条件の解析を終了することができた。次年度はこれらのデータ解析の後、投稿論文の作成を行う予定である。しかしながら、タマリスク自生地での継続調査を行う上で必須のカウンターパートとの調整がつかないため、自生地での詳細な生態調査を行うことができなかった。 <課題2>適合溶質蓄積とNa+移動および生理活性維持との関係: 長期の塩処理条件下で生育したタマリスクの成長と適合溶質解析用の試料分析を昨年度に引き続き行っていたが、解析を終了させることが出来なかった。 <課題3>適合溶質蓄積と部位・器官ごとの適合溶質蓄積: 長期の塩処理条件下で生育したタマリスクの成長と適合溶質解析用の試料分析を昨年度に引き続き行っていたが、解析を終了させることが出来なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
<課題1>侵入地および自生地での生態的調査による適合溶質の定性定量的解析:前年度までに得られたデータの整理、解析ののち投稿論文の作成を行う。 <課題2>適合溶質蓄積および植物の生理活性との関連性:前年度までに得られた環境条件および解析条件に従って、タマリスクポット苗のストレス期間中~回復期の成長および生理活性の解析を行う。葉の適合溶質分析を処理後(回復期)に解析する。葉の浸透ポテンシャルを測定し、適合溶質との相関を解析する。光合成活性や電解質溶出量の測定を行い、塩処理による生理機能の影響を評価する。これにより急性の塩ストレスに対する適合溶質の蓄積と生理活性維持との関わりについて考察する。ここで必要とされる氷点降下法オスモメーターは乾燥地研究センター生理生態学分野の設備品であり、本研究室の協力を得て測定を行う。 <課題3>部位・器官ごとの適合溶質蓄積とNa+移動比較、および形態的適応との関係:前年度に設定した塩ストレス条件でタマリスク苗を育成し塩処理実験を行う。塩ストレス条件下特有の組織構造観察を蛍光顕微鏡観察にて、組織内の塩蓄積解析を、および原子吸光法にて行い、長期ストレス条件下の形態変化と適合溶質蓄積量との関連性について考察する。得られた結果を整理し、学術雑誌への投稿を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題の遂行に必要不可欠な分析機器が、鳥取大学農学部および乾燥地研究センターの共同利用施設であるため、移動のための国内旅費を計上する。また解析にあたって、ランニングコストの高価な機材を頻繁に使用するため、試薬およびプラスチック器具などの物品費、また試料解析補助の人件費を計上する。 昨年度までの研究成果を公表するための国内旅費と、投稿論文作成のための英文校閲費、論文投稿にかかる費用を計上する。
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