2012 Fiscal Year Research-status Report
プロテオミクスによる白色腐朽菌の選択的リグニン分解機構と鍵代謝物生合成系の解明
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23780183
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
渡邊 崇人 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (30362403)
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Keywords | リグニン / 白色腐朽菌 / 脂質関連代謝物 / プロテオーム |
Research Abstract |
リグニン分解フラグメントであるバニリン存在下及び非存在下で調製した選択的白色腐朽菌 Ceriporiopsis subvermispora の細胞内タンパク質に対して異なる2つの蛍光色素での標識を試みた.次に,これら2種類の標識したタンパク質を混合し,一枚のゲルに泳動することにより,発現差のあるタンパク質の同定が可能かどうか,蛍光標識ディファレンスゲル二次元電気泳動を行った.その結果,バニリンによって発現が誘導,或いは,抑制されるタンパク質のスポットを視覚的に検出することができるようになった.しかしながら,蛍光標識により,タンパク質の疎水性が増加したためか,前年度までに行ってきた通常の二次元電気泳動では見られないストリークが局所的に検出され,可溶化バッファーの組成や平衡化条件を改善する等の必要が出てきた. 一方,前年度実施した Suppression Subtractive Hybridization 法で得られたバニリンによって転写が誘導される遺伝子クローンに対し,C.subvermispora を含めたゲノムデータベースを用いて機能の推定を行った.その結果,バニリンや芳香族化合物の分解に関与する遺伝子,脂質代謝については,脂肪酸の生合成系酵素,不飽和化酵素,輸送に関するタンパク質等の遺伝子が取得できた.二次代謝物の生合成については,非リボゾームペプチド合成酵素やシトクローム P450 還元酵素等の遺伝子があり,また,シグナル伝達系については, タンパク質フォスファターゼやカルモジュリン結合タンパク質等が複数ヒットした.さらに,細胞壁の合成や DNA 修復に関する遺伝子も検出された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に確立した細胞内タンパク質の調製が今年度になって更に良好に行えるようになったため,これらのタンパク質を用いて二次元電気泳動を従来法から蛍光標識ディファレンスゲル二次元電気泳動法へすみやかにシフトすることができた.しかしながら,蛍光標識を行ったタンパク質の疎水性が増加したためか,泳動結果にトラブルが生じ,その影響で局所的に泳動が乱れ,良好なタンパク質プロファイルの取得が遅れている.ただ,蛍光標識ディファレンスゲル二次元電気泳動法が Ceriporiopsis subvermispora の細胞内タンパク質に適用可能であることは確認できた.本トラブルについては,いくつかの克服方法があることから定量的に発現差のあるタンパク質の特定が今後可能であると思われる.なお,「選択的リグニン分解条件」と「非選択的分解条件」での菌体内のプロファイル取得に関しては,木粉と菌体とを分離する操作に困難が生じ,二次元電気泳動に供するだけのサンプルが調製できなかった. 一方,Suppression Subtractive Hybridization 法でバニリン存在下で誘導される遺伝子の機能推定については,本菌のゲノムデータベース以外のデータベースも用いて再度行った結果,より多くの遺伝子について機能の推定ができた.当然,全く機能が推定できない本菌固有の遺伝子もあるが,機能は推定できないものの,既知の機能ドメインを有している酵素遺伝子も存在した.特に,バニリンを添加すると新規代謝物 ceriporic acid の産生が増加することが分かったこともあり,取得した遺伝子の中に ceriporic acid の生合成に関わる候補遺伝子が存在する可能性が高い. 以上,プロテオミクスの面で多少困難が生じたが,それ以外は良好に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
蛍光標識ディファレンスゲル二次元電気泳動で生じた泳動の乱れを早急に克服する.具体的には,標識タンパク質の可溶化と等電点電気泳動(一次元目の泳動)で用いるドライストリップの平衡化の条件を向上させる.これによりバニリン存在下・非存在下での良好なプロファイルの取得を行い,発現差のあるタンパク質の同定を行う.また,定量的な解析を行うために標識効率の違いを考慮し,異なるサンプル間,さらには,各プロファイル間での比較を可能とするデータの補正法を検討する.プロテオミクスにより同定した遺伝子や前年度までに取得した発現差のある酵素遺伝子(ceriporic acid の生合成系の候補遺伝子や機能未知の遺伝子を含む)の異種発現を行い,これら遺伝子の機能を解析する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の使用については,「物品費」は研究の進捗状況に合わせて,主に生化学実験,遺伝子工学実験で使用されている汎用性の高い試薬の購入に充てる.「旅費」は,学会での研究成果発表に使用する.その他,DNA 合成,DNA 塩基配列決定の委託費,学会参加費や成果発表費用に充てる.
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