2011 Fiscal Year Research-status Report
資本支援プログラム―歴史的農業構築物の保全と企業的支援の日英比較研究
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23780231
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
野村 久子 九州大学, 国際教育センター, 講師 (60597277)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 歴史的農業構築物 / 仮想評価法 / 英国(イギリス) / 農業環境制度 / 環境スチュワードシップ制度 / 資本支援 / 企業の社会支援(CSR) / Willingness to Pay |
Research Abstract |
本研究は、農業環境制度の中に組込んだ形で資本支援を行っている英国を事例として、特に、伝統的風景や歴史的農業構築物の維持を目的とした制度の仕組みや運用手順、事例について詳細な調査を行うことを目的としている。 本年度はイングランドの農業環境制度である環境スチュワードシップ制度の農業構築物保全を目的とした資本支援について、取組みの申請時に採用となる基準や採用決定過程などの仕組みを詳細に調査した。また、現地の事例を取り上げ、運営機関であるナチュラルイングランドや歴史的農業構築物の所有者あるいは管理者への聞き取り行った。これにより資本支援制度運営上の仕組みや制度上の問題点、課題などを明確にした。 同様に、日本の歴史的農業構築物についても、これまで個人や団体、組合などにより維持されてきた根拠やその背景を調べた。また、事例としては、福岡県朝倉市山田にある、筑後川から引水している堀川用水に現存する歴史的農業構築物である三連水車を取りあげた。水車の廃止が危惧されつつも誰が将来的に残していくのか、支払っていくのかという議論はあるもののその仕組み作りに到達していないことを取上げ、公共財の価値を私的財に上乗せすることができるか否かが問題解決の糸口となることを示唆した。具体的には、伝統的農業構築物のを持つ公共財としての特性と市場財としての特性の違いが存在することを認識した上で、伝統的農業構築物の価値についての経済的特質を検討した。また、持続的に維持するための方途として、公共財の価値を私的財に上乗せすることがどの程度可能か仮想評価法(Contingent Valuation Method: CVM)を用いて調査した。その際、公共財としての価値を持つ伝統的農業構築物について仮想的に価値をつけた際に出てくるバイアス問題を取り上げた。調査の結果、アンケートの結果と実際の行動は合致することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の実施計画には、重点項目として基礎資料の収集とその整理、イングランドの運営機関や管理者への聞き取り、そして、日本の歴史的農業構築物についても事例を取上げて調査を行うことを挙げていた。 具体的には、4月から6月にかけて基礎資料の収集とその整理を行った。そして、7月から8月にかけて福岡県朝倉市の朝倉郡山田堰土地改良区である水土緑ネット山田堰、そして朝倉市にある直売所「三連水車の里あさくら」と連携して堀川・三連水車保全に関する聞き取り調査およびアンケートの予備調査を行った。 そして、9月にアンケートの本調査を行い、11月に保全金を上乗せさせた商品を販売し、市場調査を行った。また、販売個数の変化を見るために10月から12月までの販売個数をモニターした。その上で、12月から1月にかけて結果分析を行った。 2月には、英国における調査を行い、運営機関や土地所有者、ならびに管理者への聞き取りを行った。実際に現地を訪問することで、取り組みの申請時に採用となる基準や採用決定過程などの仕組みに関する聴き取りを行うことが出来た。また貴重な資料も頂いた。これらの情報や資料はウェブ上では得られることができないため、現地における聞き取りや資料収集は課題解明のために大変有益であった。同様に、ナチュラルイングランドのスタッフ同行のもと、歴史的農業構築物の土地所有者あるいは管理者とともに視察を行い、イングランドにおける歴史的農業構築物保全の現状を把握することが出来た。 3月には朝倉市における調査結果を水土緑ネット山田堰が行っている農業用水水源地域保全対策事業の普及促進委員会で報告した。 よって、全体として、初年度の実施計画どおり概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、平成23年度における研究成果を踏まえ、英国の歴史的農業構築物保全に関与する諸制度の整理を行う。また、運営管理する機関や団体の役割や機能についての整理を行う。英国調査では、自治体への聞き取り、そして企業や非営利団体を対象に、景観活動への資本支援的な参画を促す契機となるような仕組みに必要な条件や要因を調査する。 英国には、田園地域保護のための主要な地域指定制度がある。構築環境の保護を目的として、イングランドの歴史的建造物を保護する目的で設立されたイングリッシュ・ヘリテッジがあり、公的自然保護機関であるナチュラル・イングランドなどと協力体制を確立している。また、コッツウォルズといった特別自然美観地域は英国全体に40地域あり、美しい景観の保全を目的として独自の運営をしている。このような自治体あるいは機関への聞き取りを行い、構築環境保護のために行っているそれぞれの団体機関の役割や機能を明確にする。そして、Good Practiceとして事例を調査するとともに、これらの機関の持つ課題なども挙げる。 また、伝統的農業構築物保全に対する意識調査を関連機関を対象に行う。このアンケート調査は、年間100万人の訪問者が訪れるコッツウォルズ地方において保全活動を行っている団体を対象に民間企業の景観活動への資本支援的な参画を促す契機となるような仕組みに必要な条件や要因を調査する。 同様に、H23年度で得た朝倉市さん連水車を対象とした調査の成果を学会発表や論文投稿といった形で出していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、平成23年度における研究成果を踏まえ、英国の歴史的農業構築物保全に関与する諸制度の整理を行う。イングランドの歴史的建造物を保護する目的で設立されたイングリッシュ・ヘリテッジや、コッツウォルズといった特別自然美観地域を運営している機関を訪問して聴き取り調査を行う。また自治体にも同様に聞き取りをおこない、優れた実践例(Good practice)としての事例を調査するために、昨年に引き続き英国調査を行う。 また、H23年度は当初計画の見積り額ほど経費がかからなかったため繰り越した予算があるがこの研究費とH24年度予算をあわせて、研究課題解明のための、より詳細な調査を継続して行う。次年度は海外調査に加え、研究計画どおり伝統的農業構築物保全に対する意識調査を関連機関を対象に行うためにアンケート調査を行う。具体的には、関連機関や非営利団体を対象に、民間企業の景観活動への資本支援的な参画を促す契機となるような仕組みに必要な条件や要因を調査する。そのためにカートリッジ代などの印刷費を必要とする。また、データインプットなどデータの整理などで人件費を必要とする。 同様に、H23年度で得た朝倉市三連水車を対象とした調査の成果を国内外の学会発表や論文投稿といった形で出していく。そのために学会参加費や論文の英文校正などに用いる。 また、現在朝倉市では、地元の市民大学であるチャレンジ大学を中心に、三連水車そして堀川用水や山田堰といった歴史的農業構築物を対象に世界農業遺産に登録し保全していきたいという動きが出てきている。よって、引き続き朝倉市と連携して三連水車保全のための取り組みを調査していく予定であり、そのための現地訪問を必要とする。
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Research Products
(1 results)