2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23790268
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
榎木 亮介 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00528341)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 視交叉上核 / カルシウム / 概日リズム / 神経回路網 / イメージング / 振動体 / 共焦点 / アデノ随伴ウイルス |
Research Abstract |
哺乳動物概日時計の中枢は視床下部の視交叉上核に局在し、睡眠覚醒や体温調節等の生理機能の約24時間の生体リズムを制御している。個々の細胞のリズム発振機構は、時計遺伝子の転写と抑制の分子フィードバックモデルが想定され、詳細な分子機構の解析が進んでいる。一方で、時計遺伝子発現から神経発火や行動リズムなどの出力に至る過程や、神経回路網としての性質は殆ど分かっていない。本研究では、独自に開発した長期蛍光連続測定法により、数百個規模の神経細胞群の概日カルシウム振動を高空間分解能で可視化し、時計遺伝子発現とカルシウムリズムの関連や神経回路網レベルでの挙動を明らかとし、概日リズムの作動基盤を解明する目的で行っている。実験では、生後4~6日の幼若マウスから視交叉上核の培養スライス標本を作成し、培養開始7~10日後に、神経特異的プロモーター下にカルシウム蛍光プローブ(Yellow Cameleon 3.60:YC3.60)の遺伝子を組み込んだアデノ随伴ウイルスを用いて数百個の神経細胞にYC3.60を感染発現させた。回転板式ニポウディスク型共焦点と高感度CCDカメラからなる顕微鏡システムを構築することで、極微弱光での蛍光観察を可能とした。酸素透過性フィルムの使用、コラーゲンコートディッシュへの直接培養、焦点自動補償システムの使用等により、細胞の培養条件と蛍光シグナルを大幅に改善し、焦点面の動きを最小限とした長期間のイメージングを可能とした。これにより、視交叉上核の約300個の神経細胞から網羅的かつ長期的なカルシウム測定が可能となった。さらにYC3.60による二波長計測により、定量性のある概日カルシウムリズムの測定を可能とし、細胞間や領域間の差異や薬物効果の定量的評価を可能とした。上記の新規測定法については、学術誌(J.Neuroscience Methods)に受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
従来の共焦点測定では、励起光による光退色や細胞毒性および焦点面の動きなどにより、数日に渡る蛍光観察は極めて困難であった。本研究で開発したニポウディスク共焦点による蛍光観察法とスライス培養法の改善により、光障害を軽減しかつ1細胞解像度での高空間分解能での概日リズム観察が可能となった。時計遺伝子レポーターマウス(Per1::d2EGFP)を用いて長期測定の評価を行い、1細胞解像度での長期測定が可能であることを確認した。さらにアデノ随伴ウイルスを用いたスライス感染発現により、視交叉上核の多数の神経細胞から長期的な概日カルシウムリズムの測定を可能とした。YC3.60による二波長計測により、定量性のある概日カルシウムリズムの測定が可能となり、また時計遺伝子が自立振動していない領域を含めた網羅的な概日カルシウムリズムの測定が可能となった。上記の新規測定法については、J.Neuroscience Methodsに受理された。現在この測定方法を用い、視交叉上核回路網における細胞ネットワーク解析を試みておいる。また自作のリズムパラメーター解析ソフトウェアを開発し、概日カルシウムリズムを網羅的に空間マッピングすることを可能とした。これにより、これまでの時計遺伝子イメージングや1細胞カルシウム測定の研究ではでは見られなかった、概日カルシウムリズムの領域特異性や領域振動体の存在、細胞間連絡の連絡機序などが分って来た。これらの結果は現在論文投稿中である。以上の様に、独自の計測システムを開発し、パラメーター解析ソフトウェアを用いての評価法を確立するまでに至っている。これらの測定システムは広い応用が可能で、各種薬物投与法を用いての細胞機能の測定や、回路網としての機能解析が可能であり、また多機能の同時測定などが可能である。これまでに幾つかの研究結果は学会やシンポジウムで報告し、複数の学会発表賞を獲得した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに確立した長期蛍光観察法を用いて、視交叉上核の神経ネットワークの概日カルシウム振動の時空間パターンや、リズム振動の発振機序をさらに詳細に観察する。特に、カルシウム濃度変動は時計細胞の「入力」と「出力」の双方に寄与していると考えられ、また特にカルシウムは種々の機能タンパク質の活性化や、神経伝達物質や神経発火の調節にも深く関わっていることが推測されることから、概日カルシウムリズムの生理的役割を知る事は、概日リズムおよび生物時計の作動原理を理解する上で非常に重要であると考えられる。中でも時計遺伝子の転写翻訳のフィードバックループは哺乳類中枢時計において主要な因子で最も重要であると考えられており、概日カルシウムリズムと時計遺伝子発現との関係性を知ることは、生物時計の研究において最も興味深くかつ重要な課題であると考えられる。両者の関係性を知る事は、視交叉上核の細胞ネットワークの特性を知る事にも繋がると考えられる。研究計画では、概日リズム発振に必要な主要な時計遺伝子を欠損させた改変体マウスを用いることや、各種イオンチャネルや神経連絡を担う分子の阻害薬や促進薬を用いる事で、時計遺伝子とカルシウム濃度変化の関係性を解析する。さらに異なる波長の蛍光カルシウムプローブを導入し、時計遺伝子レポーター発現と同時測定を試みることで、両者の時間的な関係性、領域差などを詳細に観察する。さらに時計遺伝子発現およびカルシウム濃度変動に薬剤を用いて撹乱を与えることで、その神経ネットワークの変化を1細胞解像度で可視化し、プログラムを用いて解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
予定より倹約することが出来た為、昨年度から266,787円の残額金が生じているが、今年度の予算とあわせて主に細胞培養や光イメージング機器のための消耗品や、学会参加のための旅費として支出する予定である。
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Research Products
(9 results)