2011 Fiscal Year Research-status Report
V1のドパミン生合成酵素群の発現制御機構を標的にした新規パーキンソン病治療法開発
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23790594
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川畑 伊知郎 東北大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (30579743)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | チロシン水酸化酵素 / V-1 / ドパミン / 血清応答因子 / MAL/MKL / アクチン重合 / RhoA / 初代培養系 |
Research Abstract |
本年度はV-1タンパク質によるチロシン水酸化酵素(TH)の新規発現制御カスケードを明らかにした。これは新たなパーキンソン病の治療法を開発する上でTH発現量増強を図るための重要な意義がある。ドパミン生合成モデル細胞であるPC12D細胞、および計画調書中で予定し新たに確立させた黒質ドパミン作動性ニューロン初代培養系を用い、内在性V-1ノックダウンまたはV-1過剰発現によるアクチンダイナミクスの変化を解析し、同時にTHの発現変化を、転写活性、mRNAレベル、発現タンパク質レベルで解析した。またV-1制御に関与すると想定される諸因子については各野生型ベクターおよび変異ベクターを用意し、単体またはV-1 siRNA、V-1ベクターと同時に導入して、V-1によるTH制御への関与を検討した。その結果、V-1過剰発現においてファロイジン染色によるアクチン重合の促進が認められ、同時にTHレベル、とくにCRE非依存的なTH転写が上昇し、さらに血清応答因子(SRF)依存的な転写活性も増大した。一方、V-1ノックダウンによりアクチン重合の抑制が認められ、同時にTHレベルが1/3まで減少した。V-1ノックダウンによるTHレベルの減少は、野生型または常時活性型SRF及びそのco-activatorであるMAL/MKL導入により回復可能であった。またV-1過剰発現によるTHレベルの上昇は、変異型SRFまたは不活性型MAL/MKLの導入により打ち消された。さらにアクチン重合阻害因子としてRhoAおよびRac1阻害剤、またはサイトカラシンD、ラトランキュリンA処置においてもTHレベルが減少し、これらがV-1過剰発現によるTHレベルの上昇を打ち消したことから、V-1によるTHの発現制御がアクチン重合促進によるMAL/MKLの活性化を介し、SRF依存的経路によって行われている分子機構が初めて明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、パーキンソン病の新たな治療法を開発する上で、ドパミン生合成の律速酵素であるチロシン水酸化酵素(TH)タンパク質の新規発現増強カスケードを明らかにすることを目的とした。このことはパーキンソン病患者、およびパーキンソン病モデルマウスの黒質線条体において、ドパミン生合成酵素群の中でもTHの減少が比較的早いことに起因する。ドパミン産生モデル細胞であるPC12D細胞、および実際の黒質ドパミン作動性ニューロン初代培養系を用いて、V-1によるTHの発現増強メカニズムを検討した結果、V-1によるアクチン重合の促進を介してMAL/MKLが活性化され、SRF依存的転写活性を促進されることによりTHの転写活性、mRNAレベル、そして発現タンパク質レベルが増強されるという、これまでに報告されていた既知のCRE依存的な発現制御と異なる分子メカニズムを明らかにすることが出来た。またこのV-1によるTHレベルの増強は、PC12D細胞、および黒質ドパミン作動性ニューロン初代培養系を用いてHPLCで解析した結果、ドパミンレベルの増大を伴ったことから、培養細胞レベルにおいて生理的にも機能的であることが明らかになった。さらに、各種アクチン重合阻害剤処置においてもTHレベルが減少し、V-1過剰発現によるTHレベルの上昇を減少させたことから、V-1がTHの発現を増強させる現象と、V-1がアクチン重合を促進させるという2つの個別の事象を関連づけることが出来た点において、当初の計画を上回る成果が得られたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
V-1によるTH発現レベルの増強カスケードが実際にin vivoにおいても機能しているかを、V-1導入またはV-1ノックアウトマウスを用いて解析予定である。具体的には、V-1過剰発現遺伝子改変マウス、V-1の一過性過剰発現マウス、および申請者らが最近開発したFloxed V-1マウスを用いて、定量的RT-PCR法、ウェスタンブロット法、免役組織化学的解析によりTHのmRNA量、タンパク質発現量を、おもに中脳黒質において検討する。Floxed V-1マウスはV-1遺伝子のエクソン2の上流および下流にloxP配列を挿入したもので、CRE組換え酵素によりV-1遺伝子を欠損させることができ、ノックアウトマウスと異なり欠損時期、および欠損部位を自由に制御することができる。このマウスより初代培養の中脳ドパミン作動性ニューロンを調製し、培養系でアデノ随伴ウイルス結合CREを発現させることで、V-1をノックアウトすることが可能である。この培養ニューロンを用い、V-1一過性過剰発現およびノックダウン実験で明らかになったV-1によるTH発現制御系を、V-1ノックアウト状況下において同様の手法で検証する。さらにこのFloxed V-1マウスは組織特異的CRE発現マウスと交配させることで、組織部位特異的にV-1遺伝子の欠損をひきおこすことができるため、脳の部位別にV-1をノックアウトし、V-1発現部位依存的なドパミン生合成関連酵素群の発現量制御および合成ドパミン量を明らかにする。さらにMPTP投与パーキンソン病モデルマウスにおいて、V-1過剰発現がTH発現レベルの上昇を促進させ、結果的にドパミン量上昇をもたらしてパーキンソン病の臨床学的症状が軽減されるかを、行動試験を用いて検討する。これらの諸検討より、V-1過剰発現が新規パーキンソン病治療法として確立しうるかをin vivoにおいて検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、研究経費として消耗品費に100万円を使用する。内訳としては、免疫細胞化学実験試薬一式に250,000円、分子細胞学実験試薬一式に200,000円、生化学実験試薬一式に200,000円、質量分析用試薬一式に150,000円、細胞培養機器一式に200,000円を使用する予定である。また成果発表旅費として100,000円、調査研究旅費として50,000円、研究打合せ旅費として50,000円を計上する予定である。さらに共通実験設備の機器レンタル料として30,000円、研究成果投稿料として80,000円、また動物飼育施設費に90,000円使用する予定である。以上、研究諸経費は妥当であり、本申請による研究経費は研究の遂行上必要である。なお、レーザー共焦点顕微鏡、電子顕微鏡、および質量分析器については、既存の東北大学内共通研究設備を利用するので、設備備品費は計上しない。
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