2011 Fiscal Year Research-status Report
自殺高率地域での自殺の社会コスト:社会的包摂アプローチによる公衆衛生学的検討
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23790682
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
金子 善博 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70344752)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 自殺 / 社会的弱者 |
Research Abstract |
社会的弱者の自殺の実態に関して、関連する社会経済要因として青年~中年男性無職者での死亡率の著しい高さや、生活保護世帯での死亡率の高さが指摘されているが報告は限られている。社会的弱者の自殺対策においては、自殺の3割を占める高齢者の関連要因が重要な位置を占めるが、関連する社会経済要因の分析は十分行われていない。 自殺した高齢者個々の社会経済状況を把握することは困難であり、高齢者の自殺死亡に関連する社会経済要因のモデル化を行う必要がある。都道府県別の高齢者の自殺死亡率の地域差に関連する諸指標について検討した。高齢者の社会経済状態を強く反映すると考えられる指標群と、一般的な指標群を検討した結果、年金受給者に占める厚生年金受給者割合、平均所得、生活保護率について特徴的な結果が示唆された。 男性では厚生年金受給者割合および平均所得と死亡率との間に負の相関がみられた(-0.41~-0.58)。女性では有意ではなかったが厚生年金受給者割合との負の相関(-0.25~-0.28)は平均所得より大きかった。生活保護の対象者の内訳として高齢者および傷病者が多いが、自治体間に実施状況および実態の違いも指摘されており、今回の分析でも高齢者の自殺死亡率との関連は見られなかった。その他、地域内経済格差の指標であるジニ係数との関連については、全国消費実態調査で報告されている複数の指標と相関が弱いか負の関連がみられたが、当該指標については算出対象やその限界についての議論も多く、また上位階層の動向を強く反映する指標の特性を踏まえると、今回の結果については慎重な解釈が必要である。 国民年金受給者と厚生年金受給者の平均年金額には大きな差がある。また近年、地方でも高齢者のみ世帯および独居高齢者の増加がみられている。年金の受給状況をより精密にモデル化することで高齢者死亡の地域差を説明できる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画上の進捗状況はやや遅れている。初年度単年度の進捗としては実施に至らなかった計画もあったがその準備は進んでおり、全体としてはやや遅れている状況である。 社会的弱者の自殺の社会疫学的検討については、高齢自殺者のモデルの構築に一定の方向性を得ることが出来た。次年度はさらに地域特性や経年変化をふまえたブラッシュアップを行うと共に、他の属性をもつ社会的弱者のモデル化についても分析を進める予定である。 自殺とその関連要因の認識の試行調査については年度後半の実施を予定していたが、昨年の東日本大震災の影響により関係者との調整が大幅に遅れたため、年度中に一定の成果を取りまとめるに至らなかった。年度後半には地域や自治体の関係者等の協力により効果的な質問調査項目の検討、および施行調査にむけた企画調整を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、当初計画で初年度後半に予定していた項目を年度前半に行うとともに、当初本年度予定していた計画を年度後半に着実に、かつ拙速にならないように実施する予定である。 平成23年度の研究実施状況は当初計画に比して数ヶ月の遅れがあり、特に本研究の初年度の計画の重要な位置を占める「自殺とその関連要因の認識の試行調査」への影響が大きい。その理由としては平成23年3月11日に発生した東日本大震災の影響により研究が一時的に停滞したためである。具体的には震災対応のために、エフォートを低下させざるを得なかったこと、また協力依頼を予定していた秋田県内の自治体、ボランティア団体等への依頼、調整が遅れたためである。研究計画上、年度後半での執行を予定した項目が多かったため計画上の進捗状況に比べて相対的に予算執行が遅れた結果となった。 研究の全体計画内容の変更は予定していない。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、当初の全体計画に沿って、質問紙調査票等の消耗品および統計解析用機材等の物品費、データ入力委託費等の人件費・謝金、調査研究打合せおよび成果発表の旅費、その他、通信費、手数料等に充てる。
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