2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23791054
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
日下部 徹 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60452356)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | レプチン / アミリン / GLP-1 / 肥満 / 異所性脂肪蓄積 / インスリン抵抗性 / AMPK |
Research Abstract |
脂肪組織より分泌されるレプチンは、主に視床下部にある受容体(OB-Rb)を介して、抗肥満作用、インスリン感受性亢進作用、脂質代謝亢進作用、性腺機能調節作用、血圧調節作用、骨塩量調節作用など多彩な生理作用を有している。我々は、低レプチン血症を呈する脂肪萎縮症症例を対象に、レプチン補充療法を行い、レプチンがヒトにおいても糖脂質代謝改善をもたらすことを報告した。近年、過栄養や運動不足のために肥満し、糖尿病、高脂血症などを合併するメタボリックシンドローム症例が増加し、最終的には動脈硬化性疾患(虚血性心疾患、脳血管障害など)の増加を招き、社会問題となっている。肥満した状態では一般に高レプチン血症が認められるが、レプチンの抗肥満作用、抗糖尿病作用は減弱している。この「レプチン抵抗性」の発症メカニズムについてはいくつかの報告があるが、実際に、レプチン抵抗性を改善させる条件や臨床応用可能な薬剤の開発には繋がっておらず、さらなる検討が必要とされている。最近、高脂肪食誘導性肥満ラットを用いた実験により、膵β細胞由来ホルモン、アミリンがレプチン抵抗性を改善させる可能性が報告された。本研究では、高脂肪食誘導性肥満マウスを用いた検討を行い、アミリンが体重や摂食量のみならず糖脂質代謝改善作用についてもレプチン抵抗性を改善することを明らかにした(Am J Physiol Endocrinol Metab 302:E924-E931, 2012)。更に、消化管由来ホルモンであるGlucagon-like peptide-1(GLP-1)についても同様の作用を確認している。今後、レプチン抵抗性を改善させる条件やレプチン抵抗性の分子メカニズムを明らかにすることが出来れば、メタボリックシンドロームを包括的に治療出来ると考え、現在、さらなる検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
8週齢の野生型C57Bl/6Jマウスを5週間45%高脂肪食下で飼育することで作成した肥満マウス(DIOマウス)に対して、レプチン(L, 500μg/kg/day)、アミリン(A, 100μg/kg/day)を14日間持続皮下投与し、摂食、エネルギー消費、体重、糖脂質代謝に及ぼす影響を検討した。本研究で用いたレプチン投与量は、通常食下で飼育したマウスでは、十分な抗肥満作用を発揮するが、DIOマウスでは、摂食量、エネルギー消費、体重に有意な変化をきたさなかった。しかしながら、単独では効果を示さない量のAと共投与することで、対照マウスと比較して有意な摂食量減少、エネルギー消費増加および体重減少を来した。この時、随時血糖値は全群で正常のままであったが、血中インスリン濃度はL/A共投与群においてのみ対照群と比較して有意に低下し、インスリン感受性の亢進が示唆された。実際、インスリン負荷試験において、L/A共投与群においてのみ対照群と比較して有意な血糖降下が認められた。異所性脂肪蓄積は、肝臓、骨格筋のいずれにおいも、L/A共投与群においてのみ、有意な低下が認められ、同時に、骨格筋のα2-AMPKの活性化が認められた。また、摂食量制限および体重制限の実験から、L/A共投与群で認められたこれら糖脂質代謝改善作用は、摂食量の低下や体重減少とは独立した作用であることが示された。以上、高脂肪食誘導性肥満マウスを用いて、アミリンが体重や摂食量のみならず糖脂質代謝改善作用についてもレプチン抵抗性を改善することを明らかにすることが出来た(Am J Physiol Endocrinol Metab 302:E924-E931, 2012)。
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Strategy for Future Research Activity |
レプチン抵抗性改善作用を有する可能性があるものとして、Glucagon-like peptide-1(GLP-1)に着目した。レプチンとGLP-1の共作用を検討するために、低用量のストレプトゾトシンを用いてインスリン分泌を低下させ、高脂肪食により肥満およびインスリン抵抗性を誘導した2型糖尿病モデルマウス(Diabetologia 52:675-683, 2009)を用いた。アミリンと同様にGLP-1についても、レプチン作用を増強する効果を確認しており(一部データを2012年ADAで発表予定)、その機序について今後解析を進める。脂肪組織より分泌されるレプチンは、主に視床下部にある受容体(OB-Rb)を介して、抗肥満作用や糖脂質代謝亢進作用を発揮する。一方、膵β細胞から分泌されるアミリンは、後脳の最後野(AP: area postrema)にあるアミリン受容体を介して、摂食抑制作用、胃排泄遅延作用、グルカゴン分泌抑制作用を発揮する。また腸管L細胞から分泌されるGLP-1は、膵β細胞に直接作用して、インスリン分泌を血糖依存的に増加させるだけではなく、孤束核(NTS: nucleus tractus solitarius)を介して、摂食抑制や体重減少作用を発揮すると考えられている。これら3種類のホルモンの中枢への入力は統合され、作用の増強を来すと考えられるが、その詳細なメカニズムは明らかではない。そこで、アミリンやGLP-1によるレプチン抵抗性の改善メカニズムを明らかにするために、脳神経核レベル、神経細胞レベルでのレプチン感受性検出系を用いて、神経サーキット、細胞内シグナルレベルで、レプチン抵抗性の分子機序を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
肝臓特異的レプチン過剰発現トランスジェニックマウス(LepTg)は、通常食飼育下ではレプチン抵抗性が認められず、レプチンの抗肥満作用、抗糖尿病作用のため、対照マウスと比較して、やせ、良好な糖脂質代謝を示している(Diabetes 48:1822,1999)。LepTgを高脂肪食下で飼育するとレプチン抵抗性が誘導され、その表現型が消失し、肥満、インスリン抵抗性をはじめとする糖脂質代謝異常を呈する。このLepTg/HFDマウスは、DIOマウスとは異なり、肝臓より高濃度のレプチンを分泌しつづけるため、レプチン抵抗性が回復し脂肪重量が減った後も高い血中レプチン濃度を維持できるため、レプチン抵抗性を改善させる薬剤や条件を検討しやすい。そこで、LepTg/HFDマウスを用いてレプチン抵抗性改善薬評価系の確立を行う。評価項目として、摂食や体重だけではなく、骨格筋AMPK活性を指標としてレプチン抵抗性改善程度を分子レベルで評価する。既にアミリンについて、この評価系を用いて、レプチン抵抗性改善効果を確認している。さらに視床下部をはじめとする中枢の各神経核におけるSTAT3、PI3Kのリン酸化、NPY、AgRP、POMC、CRH等の遺伝子発現を検討し、レプチンシグナルの障害部位の同定、レプチン・アミリンの共投与時のレプチンシグナルの改善部位を同定する。また摂餌制限(Diabetes 48:1615, 1999)や脂肪摂取制限(Diabetes 54:2365, 2005)、アミリン(Am J Physiol Endocrinol Metab 302:E924, 2012)、GLP-1以外に、レプチン抵抗性を改善させる可能性がある種々の条件や薬剤を検討する。
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Research Products
(3 results)