2011 Fiscal Year Research-status Report
染色体転座におけるヒストン脱メチル化酵素の役割:ダイナミックな染色体構造の改変
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23791089
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
和田 妙子 自治医科大学, 医学部, 助教 (30382956)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 染色体異常 |
Research Abstract |
放射線照射後のLSD1の発現量の変化を調べるためHEK293細胞に50Gyの放射線を照射しLSD1タンパクの発現を経時的に調べたが変化はみられなかった。また、正常Tリンパ球に放射線を照射し、LSD1の局在が変化するかどうか共焦点顕微鏡を用いて調べると、LSD1は核全体に発現しており放射線照射後も変化はなかった。 正常細胞と白血病細胞におけるLSD1の質的・量的異常について調べた。LSD1タンパクの発現を調べると、正常細胞にはほとんど発現しておらず、白血病細胞では強発現していた。特に染色体転座を有する白血病細胞ではより強発現していた。また、RT-PCR法にてLSD1のmRNAの発現を調べると、タンパクの発現と同様の結果が得られた。哺乳類に発現しているLSD1にはエキソン2とエキソン8にアミノ酸が挿入されることで生じる4つのアイソフォーム(2a-/8a-, 2a+/8a-, 2a-/8a+, 2a+/8a+)が存在する。RT-PCR法にて血液細胞に発現するLSD1を調べると、2a-/8a-と2a+/8a-の2種が存在していた。 免疫沈降法にてLSD1複合体因子を解析した。K562細胞に強発現する内因性のLSD1はCoRESTと結合していた。一方、HEK293細胞にHA-tagを付けたLSD1アイソフォームを強発現させると、血液細胞に存在する2つのアイソフォームでCoRESTとの結合が確認された。 血液細胞に発現するLSD1を導入したU937細胞とUT7細胞のBCRとABL1各遺伝子に、Zing-Finger nuclease (ZFN)を用いて部位特異的な二重鎖切断を行った。現在、二重鎖切断後のBCR-ABL1融合遺伝子の形成をTaqManプローブを用いたリアルタイムPCR法とFISH法にて定量することで、LSD1の発現変化に伴う染色体転座の違いを確認している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
LSD1の発現はタンパクとmRNAの両面から同じ結果を得ることができ、白血病細胞、特に転座を有する白血病で強発現していることが判明した。これによりLSD1の量的異常の解析は十分達成できたと思われる。また血液細胞に発現しているLSD1は、既に報告のある哺乳類の4つのLSD1のうち2種(2a-/8a-と2a+/8a-)であることが確認された。この2つのアイソフォームは8a+と異なりCoRESTと強く結合する傾向があり、Battaglioli E.らの結果と合致している。血液細胞におけるLSD1の機能にCoRESTが重要である可能性を示唆した点は大きな進歩と思われる。しかしながら、これら2つのアイソフォームの機能の差については、今後詳細な解析が必要と思われる。 DNA二重鎖切断部位におけるLSD1の局在についてγH2AX抗体を用いた共焦点顕微鏡で調べた。LSD1は核全体に存在しており放射線照射後も大きな変化はなく、γH2AXとの共局在は証明できなかった。そこで、DNA二重鎖切断によるLSD1の発現量について経時的に調べたが、変化はみられなかった。 LSD1発現変化に伴う染色体転座形成の頻度の違いついて定量を行っている。当初は放射線照射により誘発される染色体転座を定量する計画だったが、放射線による非特異的な切断ではBCR-ABLなどの融合遺伝子の検出が困難であることが分かった。そこで、ZFNを用いてBCRとABL1の部位特異的切断を行い定量する方法に変更した。これにより、特異的な二重鎖切断部位の検出を可能にし、定量実験を行っている。ZFNの導入により、大きく進歩したと思われる。 LSD1を強発現するトランスジェニックマウスの作製の準備も開始しており、全体的におおむね順調と思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
血液細胞に発現するLSD1を導入したU937細胞とUT7細胞のBCRとABL1各遺伝子に、ZFNを用いて部位特異的な二重鎖切断を行うIn vitroの系を構築した。この系を用い、二重鎖切断後のBCR-ABL1融合遺伝子の形成を、TaqManプローブを用いたリアルタイムPCR法とFISH法を用いてコントロールと比較定量することで、LSD1の強発現が転座の形成に必須なのか、またどのアイソフォームが関与しているのかを解析する。逆にshRNAを用いてLSD1の発現をノックダウンし、染色体転座の形成が減少するかどうかを調べる。また、LSD1阻害剤(pargylineやtranylcypromin)でもLSD1ノックダウンの場合と同様の結果が得られるかを調べる。これらによりLSD1または血液細胞に発現する2つのLSD1アイソフォームのうちどちらが染色体転座の形成に関与しているのかを明らかにする。 Sca-1プロモーターを用いて造血幹細胞特異的にLSD1を強発現するトランスジェニックマウスを本田浩章教授(広島大学原爆放射線医科学研究所)との共同研究で作製する。このマウスに放射線を照射し染色体解析を行い、転座の発生頻度を調べる。併せて長期間の観察で白血病発症の有無を確認する。放射線照射後のトランスジェニックマウスに染色体転座が生じた場合、その転座の形成をLSD1阻害剤の予防的投与で抑制できるか調べる。また、LSD1のDNA結合配列を解析し、転座の発生しやすい位置を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究経費の大部分は計画の遂行に必要な実験用試薬およびトランスジェニックマウス作製費用、データ解析のための謝金であり、設備備品に当てる予定はない。また、前年度の研究成果を発表するための学会参加旅費と研究成果を論文として刊行するための経費に使用する。研究費の使用内容に変更はなく、すべて必要かつ妥当な経費と考える。
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