2011 Fiscal Year Research-status Report
神経免疫異常による統合失調症発症機構としてのエピジェネティック異常
Project/Area Number |
23791340
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
関 善弘 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30597274)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | ミクログリア / 白質異常 / オリゴデンドロサイト / 共培養 / 統合失調症 |
Research Abstract |
統合失調症はいまだ根本的な原因は解明されておらずその予防と治療法確立が切望されている。統合失調症に遺伝的影響があることは家系解析などから明らかであり、その疾患への関与は3~7割ほどを占めると報告されている。残りの要素は非遺伝要因、あるいは遺伝―環境相互作用よるものと考えられているが詳細な報告はほとんどない。そこで我々は統合失調症に影響を及ぼす環境要因として、ウイルス感染に着目し研究を行った。IFNγ刺激後のミクログリアと初代オリゴデンドロサイトを共培養したところ、オリゴデンドロサイトに著しい変性変化が認められ、抗菌剤のミノサイクリンと非定型抗精神病薬のアリピプラゾールにその抑制効果が認められた。IFNγ刺激後のミクログリアはNOおよびTNFαを産生し、ミノサイクリンはその放出を抑制した。次にミノサイクリンがミクログリアに及ぼす影響をJAK-STAT経路に焦点を当てて調べたところ、SOCS1の発現上昇、pSTAT1の発現抑制pERKの発現抑制、およびpp38の発現抑制が確認された。今回の結果より、抗菌薬であるミノサイクリンは非定型抗精神病薬のアリピプラゾールと同様に、IFN-γ刺激後のミクログリア由来のフリーラジカル(nitric oxide)や炎症性サイトカイン(TNF-α)の産生を有意に抑制すること、およびその抑制機構にはSOCS1の発現を上昇させることでSTAT1のリン酸化を抑制し、MAPK経路のERK、p38のリン酸化も抑制していることが示された。ミクログリア活性化は統合失調症脳内の器質性変化をもたらし、病態の慢性化・不可逆性化に関与する可能性があるとされている。従って、これらの薬剤は急性精神病状態の治療のみでなく、統合失調症の慢性化・不可逆性をも抑制し、陰性症状の発現や認知機能障害予防に効果がある可能性が示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度に予定していた動物実験にやや遅れがある。計画では、合成二重鎖RNAであるPoly I:Cを妊娠中期マウスに腹腔内投与することによって母体ウイルス感染モデルを作製し、その仔マウスの行動解析(PPI)と海馬に焦点を絞った生化学的解析を中心に検討する予定であった。しかしながら、解析のターゲットである仔マウスの出生数が計画の半数以下となり、実験を明らかにするための動物モデル数が確保できていないというのが理由である。
|
Strategy for Future Research Activity |
1、モデル動物の確立:まずは母体疑似ウイルス感染モデルより仔マウスを出生させ、その仔マウスに対して行動解析を行う。現在、動物モデル数を確保するため、本実験の参考とした文献の第一著者であるMakinodan博士に直接の指導を受け、実験の手技について再度検討中である。モデル動物を確立してからは、当初の計画通り研究を進める。2、プレパルス抑制試験(PPI)による行動解析:PPIを行う時期に関する報告については、出生後マウスの思春期に当たる21日目とそれ以降の63日目で検討する報告が多数を占めるため、本研究においてもその時期を目安にし、マウスの異常行動を経時的に確認する。3、SOX10の遺伝子レベル、およびタンパクレベルにおける解析:Poly I:Cを投与後の母体感染モデルから出生したマウスは生後14日目に海馬において髄鞘の脱落という組織変化と同時期、同部位でMBPのm-RNAレベルおよびタンパクレベルで発現低下するとの報告がある(Makinodan M, 2008)。MBPはオリゴデンドロサイトにおいて、Olig1/Olig2の転写因子が転写活性化因子であるSex determining region Y-box containing gene 10(SOX10)と複合体を形成することで、転写が活性化され(Li H, 2007)、Olig1/Olig2には転写および発現するタンパクに異常はないとの報告がある(Makinodan, 2008)ことから、まず、母体疑似ウイルス感染マウスより出生した生後14日目のマウス海馬のみを摘出し、SOX10について遺伝子レベル、タンパクレベルで確認する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1、消耗品費について:消耗品の内訳は実験用動物、試薬および抗体、実験器具購入費に充当する。これまでに予備的な実験を行った結果から、必要な消耗品を購入する。2、旅費について:国内学会(予算:おおよそ5万円)および国際学会(米国で開催されるNeuroscience meetingに参加予定:おおよそ25万円)への参加旅費を想定している。3、謝金等およびその他について:論文作成にあたり、英文構成費を10万円、研究成果印刷費を10万円を想定している。年度内に最低1本の原著論文の投稿を想定し、金額はこれまでの実績から算定した。
|