2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23791376
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
NAM Jin‐Min 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教 (60414132)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 放射線 / 乳癌 / 浸潤 |
Research Abstract |
近年、癌の放射線治療が普及し、乳癌の治療においても一般的に放射線治療が併用されるようになってきている。乳癌治療の際、放射線療法を行うことによって、外科的切除のみの場合に比べて再発率が半減されることが報告されている。しかし、放射線療法を行ったにもかかわらず再発した場合は、その約半分が、より悪性度の高い癌として浸潤能や転移能を獲得していることも報告されている。乳癌はその原因となる分子や浸潤・転移等の分子メカニズムが複雑でかつ多種多様であり、放射線に対する影響も含め、未だ解明されていない部分も多い。本研究は、乳癌細胞における放射線の影響とその分子メカニズムを理解することよって、多種多様な乳癌の中から放射線治療に適した乳癌を見分けるための分子マーカーを同定し、さらに放射線療法後の再発を防ぐための分子標的の候補を得ることを目的とする。本年度は、乳癌細胞における放射線の影響を調べるため、再構成基底膜(ラミニンリッチマトリゲル)による3次元培養モデルを用いて解析を行った。浸潤能が高い乳癌細胞MDA-MB-231と浸潤能が低い乳癌細胞SK-BR-3を3次元培養し、0Gy, 2Gy, 8GyのX線を照射し、細胞死等の解析を行った。また、これらの乳癌細胞に放射線を照射後、生き残った細胞を3次元マトリックスから取り出し、取り出した細胞を用いて、インベージョンアッセイによる浸潤能を測定した。その結果、放射線照射後に浸潤能の亢進が認められる乳癌細胞を特定することができた。また、浸潤能の亢進に伴い、発現量が変動する分子の検討を行った結果、浸潤能亢進とタンパク質発現量の間に相関が見られる分子を確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、乳癌細胞における放射線の影響とその分子メカニズムを理解することよって、多種多様な乳癌の中から放射線治療に適した乳癌を見分けるための分子マーカーを同定し、さらに放射線療法後の再発を防ぐための分子標的の候補を得ることを目的としている。特に、23年度は、1)実験系の確立、2)放射線照射後に浸潤能が上昇する乳癌細胞株の特定を試みた。まずは、乳癌の3次元培養を用いた放射線照射の実験系を検討し、適切な実験系と細胞系を確立することを計画しており、すべて順調に進行できた。さらに、浸潤能亢進に伴い、タンパク質発現が増加する分子の候補もいくつか得られたため、本年度の研究は、当初の計画に従い順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度に得られた結果を基にして、放射線照射によって浸潤能を亢進する乳癌細胞を用い、関連分子の特定を行う。さらに、乳癌3次元培養系を用いて、放射線照射後の浸潤能に関わる詳細な分子機序を解析する。分子の下流の解析には、免疫沈降等の手法を用いて確認する。放射線照射株と非照射株(コントロール)の3次元培養細胞のタンパク抽出液から免疫沈降し、放射線照射株でのみ特異的に結合してくる分子を特定する。分子が特定できれば、放射線照射により誘導される浸潤能が、分子の阻害によって抑制されるかを検討する。分子阻害剤としては、阻害抗体や細胞透過性ペプチド等を用いる。さらに、乳癌細胞の3次元培養系によって得られた結果を用い、マウスモデルにおいて、放射線によって亢進した乳癌の浸潤・転移の抑制に、上記の阻害剤が有効かを検討する。マウスモデルとしては、ルシフェラーゼを安定発現させた乳癌細胞株をマウスに投与し、浸潤・転移の有無を、ルシフェラーゼのin vivoイメージングによって検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、細胞の3次元培養に必要な試薬・マトリゲル等、免疫沈降に必要な抗体類、アッセイに必要なキット類等の購入に研究費の使用を計画している。また、得られた成果を学会で発表するための旅費や、論文投稿のための校閲・投稿料等に使用する。今年度は、実験計画に含まれている複数の乳癌細胞における放射線の影響を調べる実験において、比較的初期に、適切な細胞を見つけることができた。そのため、検討する細胞数を当初計画していた数より減らす事ができ、消耗品類の消費も減らす事ができたため、使用残額が生じた。今年度は残額は、次年度の研究において、検討する阻害剤を増やす等、有効活用する予定である。
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