2011 Fiscal Year Annual Research Report
フロイトの「情動」概念、特に「不安」概念の構成にみる生物学主義的言説とその諸相
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23820008
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 朋子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特任講師 (70613876)
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Keywords | 思想史 / 精神分析 / ドイツ;フランス / フロイト / デリダ / 身体論 / 情動 / 喪 |
Research Abstract |
精神分析の創始者フロイト(1856-1939)についてしばしばいわれる「生物学主義」とは、生物学から術語を借用したり、「生物学」の語を利用したりするときに彼がとっているだろう何らかの態度を問題にするものである。本研究では、「情動」をめぐって散逸してみいだされる彼のそうした生物学主義的な言辞の数々を、ある一貫性を保ちつつ、また、身体や歴史性に関する問いをはじめとする自身に固有ないくつかの重要な問いを提起しつつ展開する言説として再構成することを目指す。この研究の意義は、直接には、フロイトの「情動」概念に関する従来の解釈の不十分な点を補うことにある。長期的な展望では、フロイトの生物学主義の全般的な再評価に、ひいては、20世紀の人文諸科学が様々な文脈で精神分析的なアプローチを利用して展開した身体論の再評価に向けて途を拓くことにある。 本研究の二つの主要な軸は先行研究の検討とフロイトの著作の検討に存する。 本年度は、最初の軸に関して、フランスの哲学者デリダの1960-90年代の仕事をとりあげた。デリダがフロイトの局所論と欲動論の再読解を通じて「情動」の問いの再開発にいたったことと、その再開発が他者論の文脈においてとくに高く評価されうることを明らかにした。第二の軸に関して、フロイトにおける個人心理学と集団心理学、文化論、社会論の分節に焦点をあてた。一般的観点から、1920年に行われた「死の欲動」の概念の導入をとりあげ、この導入が、(集団のなかで生きる個人の心理学としての)いわゆるメタ心理学の構築の水準における生物学主義的見地の組み込みをもたらしていることを明確にした。個別的検討において、「喪=悲しみ」と「愛」をめぐる言説をとりあげ、後期のフロイトによるこれらの情動の問いの深化のうちに、「痛み」や「享楽」が生じる場としての身体という考えが粗描されていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フロイトの「情動」概念について行われた従来の解釈の不十分な点を補うという、交付申請書に記載した目的を達成するための研究を、「喪=悲しみ」と「愛」という具体的な論点に即して実施できたから。また、20世紀の人文諸科学が様々な文脈で精神分析的アプローチを利用して展開した身体論の再評価に向けて途を拓くという、より長期的な展望のもとで示した目的に関しても、それらの身体論の多くにおいて参照されている哲学者デリダの仕事を研究することによって、達成に向けた計画を一部実現することができたから。
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Strategy for Future Research Activity |
ひきつづき、文献読解を中心的な作業とし、先行研究の検討とフロイトの著作の検討を二つの主要な軸としながら、研究を推進してゆく。研究成果については、随時、国内外の学会や研究会(日仏哲学会、日本フランス語フランス文学会、日本ラカン協会、国際精神分析・哲学学会など)、シンポジウムで口頭発表し、また、国内外の学術誌や学会機関誌、大学の紀要等で論文の形で発表する予定である。
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Research Products
(7 results)