2011 Fiscal Year Annual Research Report
憲法学史の新たな地平-グロティウスからスピノザまでを貫く「啓示の媒介者の問い」
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23830014
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福岡 安都子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 准教授 (80323624)
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Keywords | 公法学史 / 国際情報交換 / オランダ:ドイツ / グロティウス / スピノザ / ホッブズ / 思想の自由・良心の自由 / 主権 |
Research Abstract |
スピノザ『神学・政治論』(1670)とホッブズ『リヴァイアサン』(1651)はほぼ時代を同じくして国家と宗教の関係を論じた。差異の多い両者を繋ぐ共通関心が「啓示の媒介者の問い」(神の法の内容を具体的場面で特定する役割を担うのは教会か、主権者か、個々人の良心か)であったところ、在外研究を含む本年度の活動を通じ、この問いの歴史的コンテクストについて特に以下の成果を得た。 1.グロティウスを取り巻く1600~10年代の論争において既に、国家と教会の関係が、世俗為政者と教会が神の下に対等に並び立つか・神の直下に立つのは主権者としての世俗為政者のみかという対立関係として理解されており、この初期主権論に「啓示の媒介者の問い」の萌芽が認められること。 2.1650~60年代にスピノザの周囲で、上記グロティウスらの著作のリバイバル現象と評価し得る動きが見られること。また丁度この時期に問題化した地動説論者と教会との争いの中にも「啓示の媒介者の問い」が姿を変えて現れていること。 3.以上の点は、現在の憲法の基本概念である主権や思想の自由、学問の自由がどのように成立したのかに関わる。例えば特に、我が国では同じ条文に規定されている思想の自由と良心の自由の間でも、基礎となる価値観に一定の差があることを教える。 これらの成果は英語による公表に向けて目下執筆中である。原稿は4章構成・300頁ほどであり、全体につき一回目のネイティブチェックを一巡することができた。 4.このほかWoordenboek der Nederlandsche Taa1など、中世・初期近代のオランダ語・ラテン語の辞典類を予算範囲で購入し研究環境の整備に努めた。また2~3月にはスピノザ協会(上野修教授)主催の2回のロッテルダム大学ファン・ルーラー教授講演会に司会として参加した。講演は上記2に触れた教会と哲学の対立に関わる内容で、知見を大いに深めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2012年1月に冬期の在外研究から帰国する際、手荷物で持ちきれない文献をドイツから郵便により別送したところ、うち一箱が業者の手違いにより紛失の被害に遭った。これにより過去10年間に収集した関連論文をまとめた大型バインダ6冊、聖書引用比較を書き込んだ『リヴァイアサン』刊本、拙著『国家・教会・自由』に修正点等を書き込んだもの、その他資料類が失われ、英語論文の執筆に大きな打撃を受けた。また全体として、学期中は新任のため授業の準備に極めて忙しく、研究のために十分な時間を確保できていない。
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Strategy for Future Research Activity |
1.第一回目のネイティブチェックが一巡した結果、英語の意味が不明瞭な部分やその他改善点を指摘する詳細なコメントが、論文を構成する4章全てに多数付された。今年度は、1)これら改善点を採り入れ、2)項目9に述べた新しい知見を加筆した上で第二稿を仕上げ、第二回目のネイティブチェックへ送ることを目指す。 2.上記項目11に触れた、紛失の被害に遭った関連論文の再収集が急務である。国内では入手し難いオランダ史に関する文献がほとんどであったため、教務の合間を利用してオランダ・ドイツへ研究出張を行い、また複写サービスなども出来る限り利用して速やかな回復に努めたい。
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