2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23830046
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
西谷 祐子 九州大学, 大学院・法学研究院, 教授 (30301047)
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Keywords | 国際私法 / 国際家族法 / 個人の文化的アイデンティティ / 本国法主義 / 当事者自治 / 公序 / 人権規範 / 多文化主義 |
Research Abstract |
本年度は,当初の研究計画に従い,第一に,(1)本研究の基礎となる多文化主義及び価値相対主義に関する社会学、哲学、倫理学,文化人類学等の観点からの学際的な研究を進めた。特にユルゲン・ハーバーマス、チャールズ・テイラー、ウィル・キムリッカ、アマルティア・セン等の議論は,法学に関する問題を様々な角度から分析し,検討するのに大変有益であった。 第二に,(2)本国法主義及び常居所地法主義の対立をめぐる従来の議論及びEUの近時の動向についても研究を進めた。特にEU法上の国籍による差別禁止原則と本国法主義との関係について関連文献を渉猟し,考察したほか,EU国際私法におけう方法論の転換(特に「承認原則」の導入と国際私法による準拠法決定の意義の後退)についても検討を進めた。また,2011年9月には,ドイツにおいてケルン大学マンゼル教授と面会し,本国法主義の現代的意義について意見交換する機会があり,大変有益であった。 第三に,(3)国際私法における多文化主義と人権規範の尊重についても研究を進めた。特に2011年5月に日本政府が「子の奪取に関するハーグ条約」を批准する方針を示して以来,わが国でもその意義と実施のあり方が盛んに論じられているが,これは国際私法と人権保障のあり方に通じる問題でもあり,ヨーロッパにおいても欧州人権裁判所のノイリンガー判決を契機として活発に議論されている。そこで,本研究においては,当初予定していた国際私法と人権規範に関する研究,特にイスラム法系諸国との関係での準拠法の適用(又は外国裁判の承認)とその限界という問題に加えて,上記ハーグ条約による普遍的価値としての子の返還(現在,締約国は87を数える)と人権保障のあり方という観点からも研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度中に予定していた研究内容は,おおむね達成できているといえる。下記のとおり,研究成果としては,すでに2本を公表済みであり,1本がまもなく公表予定となっている。また,上記の研究実績の概要のとおり,本研究課題の基礎となる学際的研究を進めているほか1本国法主義の現代的意義及び国際私法における公序と人権規範の関係についても検討を進めており,その研究成果として,すでに約100ページほど原稿を執筆している段階にある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方向性としては,本年度の研究内容をさらに深化かつ拡充させ,研究成果をまとめることを予定している。特に研究代表者は,2012年2月から4月まで米国デューク大学において研究・教育に従事する機会に恵まれ,米国での研究を通じて複数の新しい視点を得ることができたことから,英米法系諸国における議論も視野に入れて研究を進める予定である。上記のとおり,精力的に執筆作業も進めており,できるだけ早い段階で研究成果の公表準備を終えたいと考えている。
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Research Products
(4 results)