Research Abstract |
視覚環境における適応の根底には,様々な予測機構の働きがある。その一つが,申請者らの近年の研究からその存在が明らかとなった"非意図的な時間文脈ベースの予測"とよばれる機構である(e.g.Kimura, Czigler &S chroger,2011,NeuroReport)。我々を取り巻く視覚環境には,常時膨大な数の視覚オブジェクトが存在し,その多くはその見えを時々刻々と変化させている(人や動物,車,飛んでくるボールなど)。非意図的な時間文脈ベースの予測機構は,そのオブジェクトの現時点までの時間文脈(すなわち,そのオブジェクトの現時点までの動きや変化のパターン)から規則性・ルールを抽出し,それを基に予測モデルを形成することで,そのオブジェクトが次にどのように変化するのかを事前に,意図に関わらず自動的に予測する。本研究は,この非意図的な時間文脈ベースの予測に関わる脳内情報処理ネットワークを解明することを主眼とする。特に平成23年度は,非意図的な時間文脈ベースの予測を反映する脳活動である,視覚ミスマッチ陰性電位(visual mismatch negativity:VMMM)とよばれる事象関連脳電位(event-relatedbrainpotentia1)成分に対しsLORETA時系列解析を行うことで,非意図的な時間文脈ベースの予測に関連する脳活動間の関係性について検討した。まず,VMMNを選択的に抽出するため,Kimura,Katayama, & Murohashi(2008,Psychophysiology)やKimura, Widmann, & Schroger(2010,Brain Research;2010,International Journal of Psychophysiology)などで用いられてきた,輝度・コントラスト逸脱を含むオドボールパラダイムを用いた脳波実験を行った。その結果,輝度・コントラスト逸脱に対する明瞭なVmm(刺激呈示後約180-240ミリ秒付近,右後側頭部優位)が観察された。sLORETA時系列解析の結果,Vmmが主として視覚皮質と前頭前野の活動を反映していることが明らかとなった。この結果は,非意図的な時間文脈ベースの予測が,視覚皮質-前頭前野間のネットワークにより達成されている可能性を示唆している。この脳波実験と並行して,非意図的な時間文脈ベースとVmmの関係に関する総説を,生理心理学分野における定評ある国際誌,InternationalJournalofPsychophysiology誌に執筆した(査読あり)。現在,この総説の内容に基づく形で,今回の脳波実験で得られた結果の解釈を行うとともに,国際誌への投稿準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究計画に即し,実験実施・データ収集・データ解析を着実に終了し,現在論文化を進めている。また当該研究計画における主要な脳活動指標である視覚ミスマッチ陰性電位に関する総説を国際誌に執筆することで,当該研究成果を,国内外に効率的にアピールするための学術的土台を作ることができた。おおむね順調に進展しているといえる。
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