2011 Fiscal Year Annual Research Report
戦前・戦中における人形浄瑠璃文楽の普及とその受容に関する考察
Project/Area Number |
23901002
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Research Institution | 京都府立嵯峨野高等学校 |
Principal Investigator |
多田 英俊 京都府立嵯峨野高等学校, 教員
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Keywords | 人形浄瑠璃文楽 / 戦前・戦中 / 団体鑑賞 |
Research Abstract |
1、研究目的 戦前・戦中における人形浄瑠璃文楽は、当時の国家主義・思想統制の中にあって、封建思想を体現する芸能として、教育機関等への鑑賞・事業の普及が押し進められ、児童・生徒らも絶対的なものとして受容せざるを得なかったという、今日とは異なる特殊な状況下に置かれていた。本研究は、そのような把握がステレオタイプ化したものであるとの認識から、その実態がどのようなものであったかを、普及側と受容側双方の声が偏りなく掲載されている当時の資料を分析し、具体的に裏付けて示すことを目的とした。 2、研究方法 「浄曲新報」を詳細に検討した。当資料は昭和10年から同12まで月2回発行された新聞であり、財団法人大日本浄曲協会の機関紙としての役割を果たしていた。この法人は、「人形浄瑠璃寄付上演」の推進を第二の事業目標とし、女子の情操教育への貢献ならびに施設収容・従事者の慰安をその目的に、国粋精神の宣揚と古典芸術の保存とを事業の主眼として、財団法人の認可を受け国家から補助金を獲得している。紙面には寄付上演が行われた各学校生徒の感想文を多数掲載し、その内容も肯定的ばかりでなく否定的なものも含んでいる。 3、研究成果 まず、掲載された感想文の分析から、否定的なものはもちろん、肯定的なものからはその反省として、当時流行の娯楽を享受していた実態が見え、現代の若者と変わらない価値観が存在していたことが明確となった。次に、上演演目として三十数題を選定するにあたり、事業要目に依拠するため文芸ないし声曲上の価値を別としていることから、受容における現実を見据えながらその普及に取り組んでいたことが判明した。さらに、来日した欧米著名人の鑑賞評を精力的に求めたり、観光地や繁華街での普及活動も積極的に行っており、国家主義的な視点からではない、受容の実際を見据えた現実的な普及を推進していたことも特徴的であった。
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Research Products
(1 results)