2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23902003
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
佐久間 俊輔 東京学芸大学, 附属高等学校, 教諭
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Keywords | 和歌 / 口語訳 |
Research Abstract |
本研究は、本居宣長の弟子である衣川長秋が著した新古今和歌集の口語訳である『新古今集渚の玉』(以下『渚の玉』と略称)の資料的性格を明らかにすることにある。 研究実施計画に基づき、資料収集を行い、索引を作成した。当初は本居宣長の著した『古今集遠鏡』(以下『遠鏡』と略称)との比較を中心に行う予定であったが、衣川長秋は『百人一首』の口語訳も著しており、その著『百人一首峯梯』(以下『峯梯』と略称)と併せて、時の助動詞(過去を表すキ、ケリ。完了を表すツ、ヌ、タリ、リ)の訳出態度について調査を行った。 その結果、次の点が明らかとなった。 1.『遠鏡』は、原歌の「意(こころ)」を反映した訳(文学的口語訳「第一原則」)を基本としつつ、同形式は同じ口語で訳す(語学的口語訳「第二原則」)ことも行っていた。『渚の玉』は、基本的に師説を継承し、『遠鏡』の原則に基づいた口語訳がされている。 2.ただ、「第一原則」よりも「第二原則」で口語訳する傾向が強い。例えば完了の助動詞「ツ」を『遠鏡』が9パターンで訳し分けているのに対し、『渚の玉』の訳は2パターンしかない。それだけ機械的な訳になっていると言える。同様に「ヌ」は『遠鏡』10パターンに対し『渚の玉』6パターン。「タリ」は『遠鏡』5パターンに対し『渚の玉』2パターン、「リ」は『遠鏡』9パターンに対し『渚の玉』2パターンであった。 3.過去の助動詞「キ・ケリ」も、少ないパターンで訳す点では完了の助動詞と同様であるが、『遠鏡』に見られない訳語を『渚の玉』で施している例も見られた。師説をそのまま受け継ぐのではなく、文脈に応じた訳語を施そうとする意識がうかがえる。 4.同じ衣川による『峯梯』の訳出態度は、『渚の玉』と共通するが、用いる訳語に一段活用の動詞の使用や動詞連用形に促音便を用いていたり、「アッタラ」、「バッカリ」など促音を含んだ、比較的くだけた言い回しが見られる『峯梯』に対し、『渚の玉』は二段活用が主で、促音化の使用も少ない点が異なる。
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