2023 Fiscal Year Research-status Report
ヴェーダ文献における祭主の規定から読み解く古代インドの社会倫理
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23K00046
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大島 智靖 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 研究員 (60626878)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | ヴェーダ / ソーマ祭 / 祭主 / 贖罪 / 儀礼 / 古代インドの儀礼 / ヴェーダ祭式 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は計画通りブラーフマナ文献およびシュラウタ・スートラ文献におけるアグニシュトーマのマントラの伝承・規定・所作について整備を進めた。特にアグニシュトーマ冒頭のディークシャニーヤー・イシュティ(潔斎導入のための穀物儀礼)について、サーマヴェーダ系統のシュラウタ・スートラ文献に明示される「タールクシュヤ・サーマン」に関して、それがヤジュルヴェーダおよびリグヴェーダ系統の諸文献に言及されない点に注目し、サーマヴェーダ系統のブラーフマナ時代に導入に成功した追加要素であることを明らかにした。その導入の祭式的背景について精査し、9月にパリにおける第8回国際ヴェーダ学ワークショップで発表した。 また、ヴァードゥーラ学派のヴァードゥーラ・シュラウタスートラ第14章「アグニシュトーマ祭主の章」の解読・分析はテキストの整備と概観に留まった。本章の内容は全く未知の領域であり、その意義を確定するためにも早急に読解翻訳を進める必要がある。次年度はその作業を中心に進めて、祭主のプラーヤシュチッティ(贖罪規定)を抽出し、シュラウタ・スートラ文献時代以降に表れる、ソーマ祭祭主にまつわる社会倫理の実態を明らかにする。ソーマ祭の実地調査は研究年度の後半に予定しているので、当該年度に続いて次年度は2020年に録画したアグニシュトーマの映像素材の編集に努める。当該年度では上述のワークショップにおいてディークシャニーヤー・イシュティの映像を公開した。次年度はソーマの購入を中心とした諸行為を編集し、貴重な映像資料を提供したいと計画している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題のもう一つの柱であるヴァードゥーラ学派のヴァードゥーラ・シュラウタスートラ第14章「アグニシュトーマ祭主の章」の解読・分析に十分取り組むことができなかった。そもそも伝承の不完全さに並行テキストが皆無であることが重なり、テキスト全体の把握が予想以上に難しく、エディションの確定に時間がかかっている。従って、それに伴い計画していたアグニシュトーマの行程あるいは儀礼行為の各項目に従ってチャート化し、レファレンスとして利用できるものを作成する作業も次年度に回した。
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Strategy for Future Research Activity |
ヴァードゥーラ学派のヴァードゥーラ・シュラウタスートラ第14章「アグニシュトーマ祭主の章」の解読・分析を進めることが第一である。手がかりの少ない文献であるため読解は時間を要する。次年度はその作業を主とする。祭主のプラーヤシュチッティ(贖罪規定)を抽出する上では並行するシュラウタ・スートラ文献およびブラーフマナ文献との対照を行う必要がある。また、研究年度後半の実地調査に備えて『アーパスタンバ・シュラウタ・プラヨーガ』の読解も進める。これによって、シュラウタ・スートラ文献時代からポスト・ヴェーダ期における、ソーマ祭祭主を通じた社会倫理の断片を採取することが可能である。
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