2023 Fiscal Year Research-status Report
新語・流行語の美学ーー概念史に基づく感性的カテゴリー論の構築に向けて
Project/Area Number |
23K00131
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Research Institution | Kitami Institute of Technology |
Principal Investigator |
春木 有亮 北見工業大学, 工学部, 准教授 (80469535)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | かっこいい / かわいい / ふつう / 美学 / 感性 / 哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、「ふつう」の美学にまつわる資料調査、分析をおこない、その研究成果の一端を、2024年3月の美学会東部会で発表した。 「ふつう」のルーツは「普通」という漢語であり、仏教用語である。古くは3世紀に用例があり、「あまねく通じる」を意味した。日本には、経典とともに9世紀には持ちこまれ、11世紀には一般語となり、「ありふれた」という意味を派生させる。近代には、制度用語に多用され、ときに「普通人(民)」への標準化を内包し、構築性、規範性をはらむことになる。 1970年代には、キャンディーズの引退宣言「普通の女の子に戻りたい」に象徴されるとおり、「エリートになって、仕事に追いまくられる」よりも「自然な生き方」を好む「若者たちの"ふつう"志向」が生じる。80年代にはときに「フツー」と表記され、その語感もろとも感性化し、かつ「流行」し、非感性化する感性となって、差異化競争に疲弊したひとびとに寄りそった。こうして逆説的に感性化する「ふつう」は、中立化された自分、自分らしい自分を肯定するイデオロギーとともに価値化され、「自分」に内在化する。 しかし「ふつうの自分」をとらえるのは、容易ではない。80年代後半のさくらももこ、吉本ばなな、俵万智がこぞって描いた「ふつう」は、ある「生活感覚」であり「幸福感」であるが、過去と現在、満足と不満、緊張と緩和のどちらでもない「あいだ」にたゆたう。やがて「ふつうの自分」が「自分のふつう」へと規範化されていき、ひとは、「みんなのふつう」との二重性を生きることになる。90年代なかばからゼロ年代はじめにかけて現れる「ふつう」ではない「ふつうの子」は、そのギャップを体現した存在であった。 感性化する「ふつう」を、たえず制度、道徳、常識という「ふつう」自身の知性的な側面が警戒し、牽制する。つまり「ふつう」は、感性化と非感性化にひきさかれることになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画時には、「ふつう」は、流行とともに感性化したことばの事例ではないかと、漠然とあたりをつけていた。まず「普通」の語源と、その漢語から和語への展開をあらうという作業をしたが、それにさいして胡新祥の論文『中日近代新漢語についての研究――仏教由来漢語を中心に』(2018年)を参照することができ、作業がはかどった。 国会図書館で明治以降の3万件におよぶ資料を分類、分析したが、肉眼のいわばスキャン力が向上しており、体を酷使しはしたが、短期間で明治から現在にいたる「ふつう」のひととおりの使用例をチェックすることができた。くわえて、ふつうの流行の時期と要因を、予想したよりも明確に資料上でつきとめることができた。 また、「中立化した自分」というアイディアを得たことで、「ふつう」がいかなるしかたで感性化したか、いかなる感性なのか、その理論構築が早々に進んだ。 よって、当初の計画以上に進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
「ふつう」の美学を、一定の結論をともなうかたちで構築し、学会で発表できたので、今後は論文のかたちで公表する。 また同時に、かねてかから論文、学会発表などを蓄積している「かっこいい」、「かわいい」、「いかす」の美学を、本にまとめる作業を進める。 さらに、流行しつつ感性化することばのサンプルをひきつづき集める。
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