2023 Fiscal Year Research-status Report
形容詞の意味機能と概念化における認知類型論的実証研究―日中英語の形容詞を中心に-
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23K00510
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
王 安 法政大学, 文学部, 教授 (70580653)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 英光 北海道大学, 文学研究院, 名誉教授 (10142663)
上原 聡 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 教授 (20292352)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 日中英の形容詞 / 意味機能と概念化 / 日中英の対訳実例 / 対照言語学 / 類型論的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日中英三言語の形容詞の意味機能と概念化の相違及び普遍的傾向を体系的に追究することを目的としている。2023年度は研究計画の準備段階で、三言語の形容詞概念化の傾向及び使用実態を把握するために、三言語の形容詞表現の用例を収集・整理し、検索・比較可能な日中英対訳用例データベースの構築に取り組んだ。用例の選択にあたっては、翻訳者による文体的偏りを軽減するために、三言語をそれぞれ原語とする文学作品及びその対訳の作品から抽出することにし、まず日本語原文と英語原文の小説を対象として用例の収集を行った。 具体的には以下の三冊の作品からデータを収集し、入力、整理作業を行った。 ① 日本語原文『容疑者Xの献身』及びその中国語、英語翻訳版 ② 日本語原文『博士の愛した数学式』及びその中国語、英語翻訳版 ③ 英語原文『Finding Gobi』及びその日本語、中国語翻訳版 対象形容詞の選定は、以下の二つの基準に基づいている。a.Dixon(2004)によって指摘された典型的な意味クラスの形容詞から英語の形容詞を44個選出した。b.aを対象に、『中日英日中英辞典』(三宅登之監修、小学館、2010)から対応する日本語の形容詞を40個、中国語の形容詞を45個選出した。その上で、会話文と非会話文に分けてそれらの形容詞が含まれる文を小説から全て抽出した。作業を行う際には、三言語の形容詞が互いに対応している例と、ある一つの言語では形容詞が用いられているが他の言語では他の表現が用いられている場合の用例もすべて抽出するように注意を払った。このようにすれば、三言語の形容詞の意味機能の共通点を観察できるだけでなく、相違点やズレも見出すことができると考えたためである。また、会話文と非会話文とに分けたのは、文体差による形容詞の使用上の相違なども観察するためである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画は概ね順調に進んでいるが、用例収集及びデータベース構築の際に以下の問題点が見られた。 1、データの収集・整理、パソコン入力などは全て手作業で、学生を雇用して行っているため、予定よりも時間がかかり、作業が遅れることがあった。また、データベース自体も引き続き修正や改善が必要な状態である。2、本年度は用例収集の段階にあり、まだ用例における詳細な分析・考察には到っていない。3、収集した三言語の用例は予測より表現パターンが単一で、語彙レベルにおける相違はある程度観察されたが、概念化における相違を観察するためには引き続き用例を収集する必要がある。4、収集した用例は非会話文のほうが圧倒的に多く、会話文が少ない。今後両者のバランスを調整する必要がある。 以上のような問題点を解決するために、今後は作業をする人員を増やし、また広い分野(文体)の作品を選出して用例収集を行う。また、データベースそのものの改良も同時に行っていく。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の研究実施過程で気づいた問題点を改善しつつ、2024年度は、引き続き日中英三言語の対訳データベースを構築しながら、分析と考察を行っていく。具体的には、 (1)用例収集の継続。2024年度は中国語原文日本語英語翻訳版の作品から用例を抽出する予定である。(2)構築したデータベースを利用し、三言語の形容詞構文パターンにおける相違点と類似点を丁寧に分析する。(3)三言語の形容詞が互いに対応していない場合の用例について、どのような文脈で出現しているのか、機能(述語、連体修飾用法)的にはどのような場合に対応していないのかを明らかにする。(4)「属性」「状態」を中心に、三言語の形容詞の概念化パターンの傾向を分析する。(5)研究代表者と分担者はより頻繁に情報交換を行い、研究打ち合わせをして、研究成果を積極的に学会や研究会で公表する。それによって多くの研究者と意見交換を行いたい。
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Causes of Carryover |
研究代表者と研究分担者の一人が2023年9月に日本認知言語学会第23回全国大会(桜美林大学町田キャンパス)で共同発表を予定していたが、分担者が発表予定日の2、3日前にコロナに感染したため、学会に出席できなかった。そのため、(分担者側の)学会出張にかかわる旅費などは使用できなかった。また、2023年3月に分担者二人が代表者のいる法政大学に出張し、研究の打ち合わせを行う予定だったが、代表者の都合で予定がキャンセルとなった。その分の旅費も使用できなかった。 今年度は代表者・分担者ともに体調管理に留意し、打ち合わせと学会発表を全て予定通り行うことができるよう努める。2023年度の未使用分も含め、執行予定額は全額使用する予定である。
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