2023 Fiscal Year Research-status Report
東アジア宮廷空間を形成する工芸に関する物質文化研究―文化相対主義的歴史観による―
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23K00806
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Research Institution | Tokyo National Museum |
Principal Investigator |
猪熊 兼樹 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 室長 (30416557)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 物質文化 / 東アジア / 宮廷 / 工芸 / 礼制 / 有職 / 腰輿 |
Outline of Annual Research Achievements |
東アジア文化圏の中枢にあった中国の宮廷では儒教的秩序の維持に努め、その理念を礼制によって具現した。礼制は身分に応じた建築・器物・衣服などの形式や意匠の規格に言及するために物質文化と密接な関係をもつ。そして礼制は東アジア各地の宮廷に広がり、時空を超えた普遍規範となって国家の公式空間である外廷を形成した。一方、君主の私的空間である内廷は各地・各民族の背景にある風土や生活習俗などが反映した工芸によって形成される。従って、外廷の宮廷工芸には東アジアの共通規格が現出し、内廷の宮廷工芸には各地・各民族の基層文化が現出するので、各宮廷を相対的に検証するうえでの好資料となるのである。 本研究では、東アジアの宮廷工芸について実物資料・文献史料・生活習俗の観点から調査し、諸調査の総合に基づく検証を行う。 2023年度の調査は、日本の宮廷工芸(東京国立博物館蔵「腰輿」ほか)、祭祀遺構(斎宮跡ほか)、宮廷行事(賀茂祭ほか)に関する調査、中国の宮廷工芸(天壇文物ほか)、祭祀遺構(天壇ほか)、宮殿(頤和園ほか)に関する調査、韓国の宮廷儀式図(国立中央博物館蔵品ほか)、宮殿(南漢山城ほか)に関する調査を行なった。また、日本・中国・韓国・ベトナム・琉球の宮廷制度や生活習俗に関する文献調査を行なった。 調査対象のひとつである東京国立博物館が所蔵する「腰輿」は安政二年(1855)に内裏(現在の京都御所)で挙行された新嘗祭に際して孝明天皇が用いた貴重な資料であることを確認し、これをクリーニングして2024年4月2日より東京国立博物館において公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ当初の予定どおりに実物資料・文献史料・生活習俗などの調査を行なうことができた。引き続き、計画的に調査を進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も引き続き、これまでの調査研究を通じて得た知見や交流に基づき、東アジア(日本・中国・韓国・ベトナム・沖縄)の宮廷工芸(宮殿・調度・服飾)に関する調査研究を行いながら、東アジアの実情に即した実証的な物質文化研究の構築をまとめる準備を進める。 特にベトナム宮廷の宮殿・調度・服飾に関する調査を行なうことを予定している。
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Causes of Carryover |
2023年度に予定していた中国方面の調査について、ビザの取得などに手間取るなどスケジュール変更が余儀なくされたために、実施可能な内容に規模を縮小した。このたび訪問できなかった調査地については、2024年度以降にあらためて調査を行なうこことし、そのために旅費を残した。
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