2023 Fiscal Year Research-status Report
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23K01056
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山口 道弘 九州大学, 法学研究院, 准教授 (60638039)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 同窓集 / 宮崎道三郎 / 史学史 / 法制史 / 三浦周行 / 文献学 |
Outline of Annual Research Achievements |
1 まず本年度は、宮崎道三郎周辺の漢籍の蒐集と翻読とを開始した。 具体的には、第1に、宮崎及び彼の師友による漢詩を収録した、早稲田大学図書館所蔵同窓集第2編(明治17年)を実地調査・筆録採集した。第2に、津藩の漢学者について、斎藤拙堂、川北梅山等をはじめとして、藩黌と其の周辺にいた人物の文集を、その漢詩文集によって蒐集した。第3に、本務校に所蔵する所の、幕末・維新期に活躍した主要な儒学者(重野成斎、川田甕江、三島中洲等)の文集を読解した。 又、宮崎道三郎が明治20年代半ばに、日本に於ける史料蒐集の要を説いている事に鑑みて、同年代の史料蒐集に関する諸学者の意見、就中修史事業(大日本編年史編纂)の中断そして史料編纂事業としての再出発に際して交わされた諸意見を、教育、歴史その他の諸雑誌の中に求めた。又、同じ目的を以て、諸大学の校史を繙き、特に修史事業に対する、漢学系の諸学者(諸教員)の反応を見出そうとした。 2 この、明治中期を対象とする史料採集の途上で、図らずも若き日の三浦周行の学修に関する史料を獲た。三浦は、生徒として及び若き教師として、現在の青山学院大学に属していた事は夙に知られる所であるが、そこでの活動の具体相が、同大学校史編纂事業の結果たる史料集等によって明らかになった。それだけでなく、同校の師友より獲たと思しき知見が、後年の三浦の重要な部分を形成したのではないかとの見通しが立った。 3 以上の作業中に、明治中期に西洋より伝来した所の文献学を、帝大文科の諸学者と同時期乃至ヨリ早くに受容し、これを自己の実作に応用した、仏教系・キリスト教の論考を多く含む史料群(雑誌)に遭遇した。それが歴史学・考証学に持つ意義に就いて、論文「文化史への途」に纏めて、これを公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1 宮崎道三郎及び其周辺に就いては、本年度は専ら史料の蒐集、読解及び整理に費やした為、著書論文等は公刊していない。蒐集した史料は、上記同窓集の筆録の外は、本務校図書館所蔵及び私蔵の漢籍等からの複写・抜書等の形で、整理し保存した。猶、これらは、何れも、公刊された、又は、一般に公開された文献である。 修史事業の中断と再開とに関しては、当時の新聞記事・雑誌記事の検索は勿論のことである。その外に、秋元信英氏の先行研究及び梧陰文庫の関係文書に就いて、当時発言を為した学者を拾いあげた上で、彼等の言動を更に深く探るべく、その勤務先に於ける活動の調査に着手した。但し、こちらは諸学校の校史を繙いた程度に止まる。宮内庁書陵部及び東京大学史料編纂所の関連文書については、未だに研究を着手し得ていない。 2 三浦周行に関しては、その日記が公開されていない為、已むを得ず、日記を材料とする年譜(勝田勝年「三浦周行博士の生涯」國學院雑誌第82巻第4号)に従い、明治21年上京、同年10月の東京英和学校高等科入学より同23年7月の卒業に至る期間に就いて、三浦自身の回想を元に其師友に就いて調べた。又、明治26年11月に同校講師に就任して以降の活動を、同校の明治期の文献に探り、幾つかの史料を得た。これらの知見を基に更に検討を加え、次年度に論文に纏めて公刊する予定である。 3 上記1及び2の作業中に、明治中期に西洋より伝来した所の文献学を、帝大文科の諸学者と同時期乃至ヨリ早くに受容し、これを自己の実作に応用した、仏教系・キリスト教の論考を多く含む史料群(雑誌)に遭遇した。これは、漢学の系統に属する考証ではないものの、本研究の目的たる、宮崎道三郎をめぐる歴史考証の学問文脈を探る為に、こちらにも補助線を引き、その一部を論文に纏めて公刊した。
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Strategy for Future Research Activity |
1 宮崎道三郎の関係史料に就いては、引き続き、その漢文脈を闡明すべき史料を求めて、詩文集、諸雑誌等を閲読する。具体的には、次年度は、第1に、彼の郷里津藩に就いては、本年度の斎藤拙堂・川北梅山に続き土井ごう牙に当り、第2には、宮崎が若き日に学んだ同人社の周辺を探る予定である。 明治20年代の修史事業中断及び再開に関しても、本年度に引き続き、新聞・雑誌等の記事を蒐集すると共に、本年度は為し得なかった、宮内庁書陵部及び東京大学史料編纂所の関連文書の調査を行いたい。 2 前年度に行った三浦周行に関する研究結果を纏め、本務校の紀要に掲載する。研究代表者は、三浦は、その文化史学を、史料編纂作業の中から恰も独力で樹立したかの如くに理解し、その旨を発表したが(山口道弘「南北朝正閏論争と官学アカデミズム史学の文化史的展開(2・完)」法政研究第88巻第1号)、これを訂正する予定である。 3 明治中期に於ける文献学の諸相に就いては、本年度公刊した「文化史への途」で知り得た所に基づき、更に史料を採集し、これを読解する。具体的には、大西祝・姉崎正治が紹介した、聖書高等批評を、明治中期以降の日本人が如何に受容し、自己の研究に於いて実践したかを、宗教学・仏教学・キリスト教学の、それぞれの雑誌・新聞記事等の中に探る。 又、これと併行して、高木敏雄以来の神話学・国文学研究に於ける文献学的研究が、後に和辻哲郎(日本精神史研究改訂版)が嘆く程に、日本では等閑視されていたのか否かを、当該分野の雑誌・新聞記事等の中に探る予定である。
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Causes of Carryover |
主たる理由は、研究が史料蒐集の段階に止まり、未だ史料を整理するための人件費を支出するに至っていなかった為である。次年度は、残額を物品費・旅費等に充当する予定である。
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Research Products
(1 results)