2023 Fiscal Year Research-status Report
連合国家の統合に関する事例研究:ブレグジット(EU離脱)に伴う変化と継続
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23K01267
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
力久 昌幸 同志社大学, 法学部, 教授 (90264994)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | イギリス / ユニオニズム / ナショナリズム / ブレグジット(EU離脱) / 領域政治 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ブレグジット(EU離脱)後のイギリスの事例を取り上げて、連合国家における国家統合を支えてきた各領域のユニオニズムが、ブレグジットのインパクトによっていかなる変化もしくは継続を見せているのか検討する。本研究はイギリスの事例に関する考察を通じて、連合国家において国家統合を促進あるいは阻害する要因を明らかにすることをめざしている。 2023年度の研究においては、本研究にとって重要な位置を占める概念である連合国家と領域政治、ユニオニズムとナショナリズム、欧州化とブレグジットに関する既存の理論および事例研究の整理と考察について、おおむね順調に進めることができた。また、イギリスのロンドンとエディンバラの公文書館において、権限移譲改革やユニオニズムとナショナリズムに関係する政府文書や政党文書の収集を行う一方、イギリス政治およびスコットランド政治の研究者と会合し、本研究の研究目的や分析手法に関して有意義な意見交換を行った。以上の海外研究調査を通じて、各領域のユニオニズムの相違やナショナリズムとの対抗関係について一定の知見を得たことは、本研究にとって重要な多民族国家イギリスを構成する領域間の相互関係を理解するうえで意味があったものと思われる。 本年度の研究成果については、EU離脱後のイギリスがめざす国家像を示すものと想定され、また帝国時代のグローバルな役割を想起させる側面も見られるグローバル・ブリテン構想に焦点を合わせたものとして、「グローバル・ブリテンの盛衰:ブレグジット後のイギリス外交に関する一考察」を『同志社法学』に発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度の研究においては、本研究に関連する主要な理論・事例研究を取り扱った文献・論文の収集・整理をおおむね順調に進めることができたので、本研究が対象とする分野に関する先行研究の知見を批判的に検討したうえで、本研究の事例分析に適用する分析枠組の構築に向けて着実な前進をすることになったと思われる。 本研究を進展させるうえで特に重要であると思われるのが、2011年以降の「イングランドの将来に関する調査(Future of England Survey)」および2019年以降の「連合王国の現状に関する調査(State of Union Survey)」にもとづく調査結果をまとめた報告書、および、調査に携わった研究者たちが公表してきた論文である。イギリス政治の主要問題の検討にあたっては、イギリス全体を分析単位として取り上げることが多く、イギリスを構成する各ネイションを分析単位として取り上げる場合も、特定のネイションに限定された研究が多いのに対して、各領域について比較検討する研究は必ずしも多くない。そうした状況があることから、イギリスの各領域の政治に関する研究を促進するために開始された上記二つの調査について、その調査データや分析内容に関する資料を相当程度収集することができたので、次年度以降の本研究の進展が期待される。 なお、2023年度の研究においては、予定していたロンドンおよびエディンバラにおける研究調査をおおむね成功裏に実施することができた。特に、ロンドンではイギリスの領域政治に関する権威とされるマイケル・ケニー教授と面会し、ユニオニズムとナショナリズムについて意味のある意見交換をすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度以降も、引き続き国内における文献・資料収集を継続しつつ、イギリスの各領域などでの海外研究調査を行うことにより、本研究のさらなる深化を図って、当初の予定通り最終年度である2025年度までに本研究を完成させることをめざす。 本研究のいっそうの進展を図るうえで、イギリスの各領域のユニオニズムおよびナショナリズム研究者との関わりが大きな意味を持つものと思われる。その点について、2024年度は2023年度に続いて海外研究調査を実施することにより、なるべく意見交換の機会を持つように最善の努力をしたいと考えている。 また、本研究の完成後に研究成果を広く社会に周知するために、連合国家であるイギリスのユニオニズムとナショナリズムがブレグジットの影響でどのような変容をすることになったのか明らかにする研究書を出版する計画の立案についても、本研究を実施するのと並行して進めていくことにしたい。
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Causes of Carryover |
2023年度には、ある程度の期間をとって海外研究調査を行うために、可能であれば授業期間外に二度にわたってイギリスを訪問することを計画し、実際に8月にはエディンバラ、3月にはロンドンを訪問して研究調査を実施したが、出張旅費の支出については勤務校の個人研究費と別の科研予算に余裕があったためにそちらから支出することにした。その結果、本研究で2023年度に支出する予定にしていた海外研究調査のための旅費を使用することにはならなかった。また、研究図書の購入に関しても、かなりの部分を勤務校の個人研究費と別の科研予算からの支出で対応することができたため、本研究からの支出が予定よりも少ない金額となったことで、当初計上していた予算額が消化されることなく、相当程度の次年度使用額が生じることとなった。 なお、2024年度には2023年度から繰り越した金額を加えて、ある程度期間を取った海外研究調査を実施したいと考えている。
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