2023 Fiscal Year Research-status Report
A Historical Study of Economic Theories on the Formation and Establishment of the Concept of "Earning Power" in the U.S. Financial System
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23K01322
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Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
川波 洋一 下関市立大学, 経済学研究科, 特別招聘教授 (80150390)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前田 真一郎 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (00410770)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 収益力 / 銀行業 / セキュリタイゼーション / 金融危機 / 金融バブル / 資本化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の開始に際し、事前に単著論文「アメリカにおける資本化(capitalization)論の系譜について」(九州大学経済学会『経済学研究』第89巻第5・6合併号、2023年3月)を発表し、英国古典派の割引現在価値概念、資本概念、収益還元法との関連においてT.ヴェブレンの資本化論について整理していた。これを踏まえて学会発表「資本化(capitalization)論の系譜とアメリカの銀行業ー20世紀の前半を中心にー」(信用理論研究学会西日本部会、北九州市立大学、2023年12月23日)を行い、米国における金融システムと担保制度の展開、収益力担保の銀行貸付部面への浸透・定着、資本化論におけるI.フィッシャーとT.ヴェブレンの理論構造の共通点と相違点、米国における20世紀後半の理論的発展とりわけH.P.ミンスキーにおけるキャッシュフローと金融危機の関連、米国における証券化(セキュリタイゼーション)におけるキャッシュフロー概念の援用の実態といった論点について発表した。古典派経済学から、新古典派における資本概念、独占期のアメリカにおける資本化論の理解を踏まえて、20世紀後半における金融イノベーションの展開を探る視座を確認できたことは大きな成果であった。これによって、19世紀から20世紀にかけての金融の肥大化や金融イノベーションの系譜を辿る筋道を示すことができた。 また、Japan's Monetary Keynote Speech, 'Policy at an Inflection Point in the Global Economy', International Conference on Convergence Content 2023においては、日本銀行の金融政策(長短金利操作YCC)において擬制資本の価格である国債価格の操作が有力な手段になっていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の論文の発表によって、本研究の課題に迫る基礎固めをすることができた。 論文「アメリカにおける資本化(capitalization)論の系譜について」(九州大学経済学会『経済学研究』第89巻第5・6合併号、2023年3月)によって、独占期における資本化論の系譜を明らかにすることができた。とりわけ、ヴェブレンの議論の特徴である、無形資産の把握がフィッシャー批判から生まれてきていたことを明らかにすることができた点は、本研究の進展にとって重要な意味を持っている。すなわち、本研究を進めるうえで、まずヴェブレンにおける収益力理論の展開と当時の企業合同運動や金融システムにおける評価機能の充実についての分析が重要な論点となることが示唆されたからである。 また、学会発表「資本化(capitalization)論の系譜とアメリカの銀行業ー20世紀の前半を中心にー」(信用理論研究学会西日本部会、北九州市立大学、2023年12月23日)によって、これまでの研究業績を整理した知見を確認することができた。この研究発表により、参加者との討議を通じて、20世紀における重要な理論的イノベーションとして、資産選択理論やCAPM、オプション理論さらにはデリバティブの理論的把握といった論点を取り込む必要がある旨、貴重な指摘を受けた。今後、可能な限り、関連の論文をサーベイし、こうした理論的イノベーションとの関連を整理していく必要がある。 以上により、これまでの研究の成果の確認と今後の研究の課題と方向性が見えてきたことにより、本研究における進捗は、概ね順調であると自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目の研究業績を踏まえて、現在次の5つのテーマについて論文を執筆中である。すなわち、「独占期における資本化(Capitalization)論の基盤-ヴェブレンの所説を手がかりに-」、「独占期における資本化(Capitalization)論の発想-ヴェブレンの所説を手がかりに-」、「『企業資本』の膨張と擬制化の進展-ヴェブレンにおける『貸付信用』の理論-」、「企業合同における資本と信用-予想収益力の資本化-」、「評価機構としての信用制度と『のれん』の役割」の5つである。 これらは、いずれもT.ヴェブレンにおける収益力理論と貸付信用の膨張に関する理論を詳細に解析しようとするものである。ヴェブレンの議論は、19世紀末から20世紀初めにかけての資本化という現象を、担保の架空化や企業合同運動、資本市場の動向との関連で詳細に論じており、20世紀後半における金融イノベーションや証券化(セキュリタイゼーション)におけるキャッシュフローの位置付けの明確化にとってどうしても避けられない対象であり、この学説を徹底的に深掘りする必要がある。とりわけ、ヴェブレンが、金融システムにおける評価という概念を持ち出して資本化を論じていることは斬新であり、これまで注目されてこなかった論点である。また、もう一つの重要な論点として、I.フィッシャーとの関連で資本の理解における時間という概念を重視していることは注目すべきである。現在、ヴェブレンやフィッシャーの議論を中心に文献を渉猟しつつあり、今後、この二つの論点に注目しながら、内外のジャーナルに発表された関連の論文をレビューし、先の5つの論点について論文を作成していく予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた外国出張を次年度以降に延期したために、次年度使用額が発生したものである。
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Research Products
(2 results)