2023 Fiscal Year Research-status Report
Developments of game theory played on networks with incomplete information and their applications to public policies
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23K01343
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
福住 多一 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (90375387)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大友 貴史 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (10375389)
戸川 和成 千葉商科大学, 政策情報学部, 講師 (20844971)
崔 宰英 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (80332550)
宮下 春樹 城西大学, 経済学部, 助教 (90848459)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | ゲーム理論 / ネットワーク / 戦略的代替性 / 戦略的補完性 / コミュニケーション / 公共政策 / 実験経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は直接リンクで繋がったネットワーク上の節をプレイヤーとするゲーム理論を検討した。特に、固定されたネットワーク構造上でプレイされるゲームの利得関数の変化が、均衡に与える影響を検討した。各種応用への社会科学的解釈が説得的、均衡の構造が複雑になり過ぎない、そして解析の実行可能性が高いという性質を満たすには、どのようなモデルと利得関数の形式が適切であるかを検討した。そこで次の2種類の利得関数の形式に研究の方向性を絞り込むことになった。一つが(多少の変種もあるが)linear-quadratic form(線形-2次形式)と呼ばれる形式を基本とするものである。先行研究でもこの形式の変種が用いられることが多い。個々のプレイヤーの最適化行動が、比較的容易に記述でき、さらに戦略的環境の性質も比較的豊かに表現できるためであることを確認した。もう一方は、コンテスト理論の利得関数の形式である。こちらはその応用が範囲が豊かであるだけでなく、プレイヤーどうしのシンプルな対戦構造を想定した従来の均衡分析に比べ、ネットワーク構造が均衡に大きな変化をもたらす性質があることが見出されてきたからである。 理論的基盤の研究を進めていく中で、新たな応用先が見出されてきた。ソーシャル・メディアにおいて、ネットワーク上の各利用者がコミュニケーション活動(書き込みの努力量)にどの程度多くの資源を割くかについて、本研究が大きく貢献できる事が判明した。そしてプレイヤー間のリンクの性質が、各プレイヤー間で正負いずれの外部性を持つかという点が、コミュニケーションを扱う場合に重要な影響を持つことが判明してきた。多くの先行研究では、プレイヤー間リンクが互いに対称的な外部性を表すように想定される。そしてリンクの影響が相互に対称的ではないことは、国家間関係への安全保障などの公共政策への応用にも重要な設定であると判明してきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、まず基本モデルを設定し、それにもとづいた応用分析・実験をそれぞれ遂行する計画であった。当初、このような単線的な計画であった。有力な応用先として、ソーシャルメディア上のコミュニケーションが浮上し、プレイヤー間のリンクの外部性の正負についての非対称も検討する必要が見出されてきた。これは市民ネットワーク(社会的共通資本)や国家間の関係(安全保障)など、当初の公共政策分野への応用に関しても、先行研究よりも現実的な理論モデルとなることが見出されてきた。この各リンクの性質の非対称性は、当初の計画にない新機軸である。しかし、この点を精緻に検討した先行研究がなく、問題の複雑さが理論的基盤の研究の遅れの原因となっている。 これに対処するため、当初の計画では中盤に想定していた応用研究との融合を早め、複雑なネットワーク構造をより現実的な視点から検討するようにした。単線的な計画を修正し、応用との複線的な遂行計画に立て直しつつある。さらにモデルの均衡の振る舞いが当初の想定よりも複雑になることが判明してきた。そこで均衡がパラメータに影響される様子を探るための数値シミュレーションの遂行を、当初の計画よりも早める準備をしている。一方、実験システム・プログラムは比較的複雑なリンクの性質を想定した場合でも、プレイヤーどうしの相互依存関係を設定する作業自体は比較的容易であり、その開発に遅れは生じていない。ただし実験結果を適切に解釈するには、理論分析の頑健な結果が、実験実施前に必要である。さらに確固たる理論的予測をしたうえで、実験計画・統計処理の方針を実験実施前に決定する必要がある。理論分析の複雑化が、これらの遂行計画を遅らせる要因となっている。 総括すると、当初計画より豊かな内容を持つ研究になるが、設定が若干複雑になるため、やや遅れが生じていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
コミュニケーションの外部性の性質を、プレイヤー間のリンクでより精緻に表現する理論モデルの解析を進める。多くの先行研究では、ネットワーク構造を通したプレイヤー間の外部性について、戦略的補完性もしくは戦略的代替性をプレイヤー全員に共通する一様なものと想定し、分析結果を得ている。しかし、本研究を遂行する中で、この外部性の性質がプレイヤー集団内で一様ではない事が、応用上、重要であることが判明してきた。ネットワークを通じたコミュニケーションから発生する様々な社会現象の複雑さが、リンク間がもたらす外部性の正負の非対称性に起因していることが判明してきた。したがって既存研究の解析結果では達成されていない複雑な対象の数理的構造を整理していく必要がある。 まずシンプルかつ応用可能性が高いネットワーク構造を特定化し、各プレイヤー間のリンクが持つ外部性の性質を変えた場合、均衡がどのような影響を受けるか検証を進める。ネットワークモデルは、その振る舞いが複雑であるため、国家間の既存の安全保障上の協力構造や市民ネットワークで頻繁に観察されるコミュニティーのネットワーク構造など、応用研究上、有意義な構造についての分析を進める。このように特定化したネットワーク構造上で、まず、リンクの外部性と均衡の関係について理論的解析と実験を進める。 これらの特定化されたネットワーク構造上で、一定の成果が得られてきた後に、より一般的なネットワーク構造・外部性と均衡の理論的関係に関して探求する。そこで有力視される分析手法として、ネットワークの構造をリンクの分布として確率的に処理する方法がある。この手法に関する数理的モデリングの技術について、ネットワーク理論に関する外部の専門家の知見を得るべく研究会を重ねる予定である。ネットワーク理論に関する外部からの知見提供は、当初計画から予定されており、その計画に沿った支出額を予定している。
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Causes of Carryover |
研究計画に関する若干の変更として記載したように、当初の計画よりも複雑なモデル分析の必要が出てきた。具体的には、プレイヤー間のリンクを経由する外部性が一様ではないケースの分析の必要性である。モデルの振る舞いが当初の想定よりも複雑になるため、一般的な数理的性質を探るシミュレーション作業に入る前に、まず応用分野に有益となる具体的なネットワーク構造の調査を早め、理論分析の進展と並行させるようにした。こうして基礎的な理論研究担当分として、シミュレーション実施を遅らせ、解析的な分析に集中することで予定額の使用を次年度に変更し、早めに応用分野での支出を重点化する措置をとった。 こうして、より複雑化した理論的基礎の研究において、一定の成果が得られてきた。そこで、次年度に生じた使用額は、当初計画の使用予定にあるシミュレーションと理論部門の検討会の開催を加速させることで、予定通りの支出計画に復帰していく予定である。さらに実験計画も、基礎研究の進展とともに、より具体化して加速することが見込まれる。昨今の物価高騰の影響を受け、実験実施における人件費・物品費が急増する可能性が高まっており、そのためにも次年度使用額を予定して、支出内容に弾力性を持たせておくことが、本研究計画を確実に遂行していくうえで、重要な措置であると考えられる。 こららの理由から次年度使用額が生じることとなり、その計画を充分に検討している。
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