2023 Fiscal Year Research-status Report
セーフティネットとしての職業訓練プログラムの評価に関する実証研究
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23K01428
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
酒井 正 法政大学, 比較経済研究所, 教授 (00425761)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 徹 高崎経済大学, 経済学部, 准教授 (10763998)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 公共職業訓練 / 国際成人力調査(PIAAC) |
Outline of Annual Research Achievements |
現行の公共職業訓練が「ニーズ」を満たしていないとの批判がしばしばなされるが、それらの批判は必ずしも客観的な論拠に基づいたものではなかった。そこで、公共職業訓練の分野別の定員数(及び受講者数)を、各分野の新規求人数と比較したところ、新規求人数が最も多い医療・介護分野で定員数も最多であった。求人側のニーズに基づいて訓練コースの提供が行われていると言えそうだが、一方で、IT分野の訓練コースの定員数は新規求人数に比べて多い傾向も見られた。再就職にあたっては分野によって職業訓練の要否が異なり、また、IT分野の職業訓練は必ずしもIT業界への再就職だけを目的にしているわけではないことには留意が必要なものの、求職者側のニーズに応える形で提供されている一部の訓練コースは有効な再就職に繋がっていない可能性がある。 次に、効果的な訓練コースを提供するために、どのような属性の労働者において訓練へのニーズが高いのかを調べた。OECDの「国際成人力調査」(PIAAC)を用いて分析したところ、わが国では、学歴や年齢、勤務先等をコントロールしたうえでも、非正規雇用ほど「(現在の仕事より)もっと高度な職務はこなせない」と考え、「更に訓練や研修が必要」と考える傾向にあることがわかった。したがって、訓練ニーズの高い非正規雇用に対して重点的に訓練を助成する必要があると言える。 また、別の個票データを用いた分析では、「社会人の学び」が、新型コロナ流行後には失業抑制効果を持っていたことも明らかにされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
複数のデータ分析を並行させており、一定の成果が得られているものの、当初の想定通りに進んでいない点もある。公共職業訓練の訓練コースの分野は、新規求人数の業種分類と必ずしも対応していないため、訓練コースと求人の間にあるミスマッチについて厳密に分析することが難しい。また、日本の訓練ニーズの特徴は、PIAACに基づいた国際比較によって浮かび上がらせることができるが、日本のデータを整理・分析するのに手一杯になり、現時点では、日本以外のデータについてはハンドリングできていない。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の進捗状況で述べた課題を踏まえた研究を進める。具体的には、提供される訓練コースと求人の間にあるミスマッチについて、回帰分析等による掘り下げた分析をおこなう。公共職業訓練における分野ごとの応募者数(あるいは定員数)は求職者側のニーズの多寡を示していると考えられるが、諸要因をコントロールしたうえでも就職率や求人倍率によって説明できるかどうかを確認する。 日本の労働者が、訓練の必要性を感じながら、スキルを高めるような取り組みをあまりおこなっていない事実はPIAAC以外の統計からも確認されている。なぜこのような事態が生じるのか説得力のある分析をおこなう必要がある。特に、雇用形態によって訓練ニーズに差があるのにもかかわらず、実際の訓練への取り組みには雇用形態による差が見られないことに留意することが重要だ。訓練の種類ごとに分析するといったことで、その理由を明らかにできるかもしれない。 ただ、現時点で公開されているPIAACの個票データは約10年前に実施された調査ということもあり、現在では訓練等への取り組みも変わっている可能性がある。直近で実施されたPIAACのデータが公開され次第、最新の状況を踏まえた分析をおこないたい。 また、訓練への助成施策が雇用保険の枠組みの中でおこなわれると、非正規雇用ほど訓練の必要性が高いにもかかわらず、そのセーフティネットからは漏れ落ちがちになり、格差拡大に寄与しかねない。個票データの分析から得られた結果を基に、現行の施策への含意について検討することも予定している。
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Causes of Carryover |
職業訓練の課題を整理するのにあたってヒアリング等をおこなうことから、旅費が必要になる可能性があったが、本年度は当方から出向かずにヒアリングする機会が得られた。また、データ整理のために人件費が生じる予定もあったが、研究代表者・研究分担者自らで整理をおこなったため、その必要が無くなった。次年度以降、分析を更に掘り下げるのにあたり、書籍や分析のための機器を購入する必要が出て来る。また、研究報告等のために旅費も利用する予定である。
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