2023 Fiscal Year Research-status Report
魚類血合筋の色調変化に及ぼす酸素の新たな影響解明~筋細胞からのアプローチ
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23K02010
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
谷山 茂人 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (20467971)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 血合筋 / 褐変 / ミオグロビン / 酸素 |
Outline of Annual Research Achievements |
魚類の血合筋は、致死後、経時的に鮮赤色のオキシミオグロビンから暗紫赤色のデオキシミオグロビンを経て、褐色のメトミオグロビンとなる褐変が進行する。その進行は不可逆的で、畜肉よりも非常に速く、致死後24時間ほどで赤色が完全に消失することもある。このメト化を伴う褐変は、致死後に魚類の血合筋を通常の空気に触れる状態で保存すると時間経過とともに進行することが知られている。 本研究では、生きた養殖ブリを即殺後、直ちに血合筋を含む切り身を採肉し、純酸素ガス、純窒素ガスまたは空気を充填したアルミニウム含有ラミネートバックで密閉して冷蔵保存した(それぞれ酸素区、窒素区、空気区)。次いで、各区の血合筋表面の肉眼的様相、物性学的・化学的な経時的変化ならびに血合筋細胞の微細構造の経時的変化について検討した。その結果、酸素区の血合筋は窒素区または空気区より、保存期間を通じて肉眼的に褐変がほぼ進行しない様相が認められた。また、酸素区は他の2区より、保存期間を通じて感覚色度a*値、メトミオグロビンの形成、乳酸量にほぼ変化がなく、pHの変動も小さく、物性学的・化学的に安定していたと考えられた。一方、空気区の血合筋の細胞内小器官微細構造は保存1日目以降に崩壊の様相が認められ、その崩壊の程度は保存期間の延長に伴って進行していた様相が観察された。しかし、酸素区では筋原線維の経日的崩壊の様相は空気区と大きな違いは認められなかったものの、筋小胞体とミトコンドリアの崩壊は空気区よりも遅かった様相が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、延髄刺殺と神経破壊による鰓呼吸と心臓の停止を致死とし、致死直後から魚類血合筋を純酸素ガス充填密閉で冷蔵保存したときの保存初期における血合筋の色調変化とメト化を調べ、それらへの血合筋のグリコーゲン量、乳酸量、pH、ATP関連化合物量とミトコンドリアの生死の関与を解析し、筋細胞に及ぼす複合的な影響を総合的に明らかにする。令和5年においては、本研究の試料魚と条件設定、血合筋表面の物性学的・化学的な経時変化に取り組み、次年度以降に向けて血合筋細胞の形態学的な経時変化を検討する計画であった。本研究の主たる試料魚はブリとし、その比較対象としてヒラマサとカンパチを選定し、条件設定も確定している。また、血合筋表面の物性学的・化学的な経時変化と血合筋細胞の形態学的な経時変化は研究実績の概要に示したとおりである。従って、現在の進捗状況は、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度以降は、ブリに加え、カンパチとヒラマサを用いて、致死直後から血合筋を純酸素ガス充填密閉で冷蔵保存したときの保存初期における肉眼的様相と血合筋表面の物性学的・化学的な経時変化、ならびに血合筋細胞の形態学的な経時変化の詳細を検討する。特に、血合筋表面の物性学的・化学的な経時変化については、グリコーゲン量・乳酸量・pH、ATP関連化合物量、生きたミトコンドリアの存否、メトミオグロビンの還元能などの観点からのアプローチを試みる。また、血合筋細胞の形態学的な経時的変化については、血合筋の細胞内小器官微細構造の変化と、細胞化学的Mg2+-ATPase活性の局在の変化についても検討を加える。
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