2023 Fiscal Year Research-status Report
家族の記憶の継承と家庭教育に関する国際比較研究―戦後東アジア地域の検証から
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23K02197
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小林 敦子 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (90195769)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
天童 睦子 宮城学院女子大学, 一般教育部, 教授 (50367744)
松山 鮎子 大阪教育大学, 教育学部, 講師 (70608835)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 家族の記憶 / 文化的資源 / 年中行事 / 戦争体験 / 家庭教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
【目的】本研究は、「家族の記憶」が、どのように次世代に継承され、子どもの社会化においていかなる役割を果たしているのかという視点から、戦後(1945年~2020年代)における東アジア地域(日本、中国、台湾、韓国)の家庭教育を比較検討する。とくに、家族の記憶を、食、住まい(家)、娯楽と文化、年中行事などに焦点を当てて検証していく。本研究においては、アジア・太平洋戦争に伴う家族の苦難の記憶の克服と次世代継承のありようを包括的に考察する。 【研究方法】家族における文化伝承の担い手としての女性に注目し、祖母(80代前後)―母(50代~60代)―娘(20代~30代)の3代に対するライフストーリー・インタビューの手法用いて分析する。 【研究成果】(1)2023年度においては、戦争の記憶に関する調査を重点的に実施。インタビュー対象者は主に戦後の中国からの引き揚げ者である。戦争の体験、特に女性の体験は、家族の中では語られにくく、むしろ戦争体験者が集まった時に、集団的な記憶として語られることが多い。(2)2023年度は、主に「食」の継承について日本を中心として調査を実施した。調査の結果を受けて、以下を指摘しておきたい。①「食」においては世代間の継承が顕著である。母が作っていた料理が娘、あるいは息子の妻(嫁)に受け継がれる。あるいは「食」に関する意識(たとえば三食きちんと食べることの重要性)の継承が行われる。②「食」は、家族の凝集力を高める作用を果たしている。家族のイベントは、「食」の次世代への伝達の機会となり、多世代交流が実現している。③家族の移動に伴い「食」に新たな要素が加わる、④近年では、女性の就労に伴い、家庭内で料理を作ることが減少し、家庭の味は外食の味へと変化する状況も見られるようになっている。 以上の調査結果を踏まえ、今後は日本だけではなく、中国、台湾、韓国との比較研究をしていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【調査】 (1)家族の記憶と家庭教育に関するインタビュー調査を日本国内で実施(東京、大阪、北海道、沖縄)。具体的には①戦前に中国に居住し、戦後、日本に帰国した引き揚げ体験者家庭の調査を行い、移動に伴う食文化の変化、および次世代への家族の文化の継承/断絶についてインタビューを実施した。②祖母―母―孫娘の3代において、「食」をめぐる家族の文化がどのように継承されているか、それが家族の記憶としていかに伝わっているのかを検証した(3代が同居、あるいは別居を含む)。こうした試行的調査を行いながら、質問票を確定した。(2)台湾に関する調査:海外研究協力者、生涯学習・家庭教育の研究者との意見交換、及び高齢者施設(新北市)、地域教育行政関係機関(台北市)への訪問を実施し調査を行った、(3)中国に関する調査:研究協力者の協力を得て、中国でインタビュー・データを収集(12家族、少数民族家庭を含む)。(4)その他の関連調査:マレーシアにおける華僑家族へのインタビュー調査(中国からの移住の経緯、家族における食文化の継承)。 【その他の関連活動】北京師範大学との共催による家庭教育及び絵本に関するオンライン講座の実施(①1回3時間、全17回、②言語:日本語・中国語、③テーマ:絵本と子どもの心、学校教育と読書支援、公共図書館による「家読」支援、絵本を通じての家族の文化の継承など)。 【分析】日本、中国、台湾でのインタビュー調査で得られた質的データの分析を行った。 【研究成果の発表】(1)国際シンポジウムでの発表,the XX ISA World Congress of Sociology,RC04,28 June 2023,@Melbourne)。(2)国際フォーラムでの発表(絵本課程与教育学研討会、@北京師範大学、2023年12月)。(3)ジャーナルでの論文の発表(『学術研究』など)。
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Strategy for Future Research Activity |
【研究打ち合わせ】(1)研究分担者を交えて、国内で2~3回の会合を実施し、今後の調査の進め方、研究の方向性を確認する(@早稲田大学)。(2)海外の研究協力者とweb会議等で打ち合わせを行う。具体的には中国(北京師範大学、北京師範大学珠海校)、台湾(中国文化大学、実践大学)、韓国(明知短期大学)などである。また来年度に向けての調査(韓国を予定)及び研究の総括について相談をする。 【調査】2024年度は、国内では東京、海外においては台湾を訪問して調査を実施予定である。「食」を中心としながら、住まい(家)、娯楽と文化、年中行事などに焦点を当てて検証していく。戦争の記憶についても継続的に調査を行う。また、中国においては研究協力者の協力によって、データの収集を行う。日本および台湾、中国でのデータの収集後、必要に応じて、追加調査を実施する(メール、SNS、電話等)。 【分析】これまで日本、中国、台湾などで収集した質的データの翻訳及び分析を、KJ法、あるいはMAXQDAなどのソフトを使いながら、精緻に行う。 【研究成果の発表】(1)2024年12月に早稲田大学において国際学術フォーラム(対面、およびオンラインの同時配信)を開催予定であり、国内外からゲスト・スピーカーを招へいする。ゲスト・スピーカーとして、日本からは、地域に根ざした子育てを実施している実践家、家庭教育の研究者、国外からは研究協力者を招へい予定である。(2)その他の国内外の学会・フォーラムで発表を行う。具体的には以下を予定している。1)台湾師範大学で開催予定の「跨越社区与世代的楽齢学習生活学術研討会」(中華民国社区教育学会主催)<2024年5月24日~25日>、2)北京師範大学で開催される教育学関連の国際フォーラム<2024年10月>。(3)論文の発表:ジャーナル(『学術研究』)、書籍(師大書苑発行)など。
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Causes of Carryover |
2023年度予算に残金が生じ、2024年度に引き継がれた理由は以下の通りである。第一に、2023年度においては、新型コロナウイルス感染の影響が残り、家族の記憶を語ることのできる高齢者への調査が必ずしも順調に行われなかったためである。インタビューが実施できない場合も多かった。第二に、海外調査のスケジュールが予定通りには進まなかったことである。コロナの感染状況は落ち着きつつあるものの、日中関係の影響を受けて中国への入国にはビザの取得が必須であり、2023年度においては、取得のため数か月かかる状況で、実質的に渡航が困難であった。 2024年度の使用計画については、以下の通りである。第一に、家族の記憶を語ってくれる高齢者への調査を積極的に実施する。高齢者の語りは、貴重なものである。とりわけ戦争、あるいは引き揚げ体験について語ることのできる高齢者が急速に減少している。新型コロナウイルスの感染状況も落ち着いているため、高齢者へのインタビューに意欲的に取り組みたいと考える。第二に、日中関係が改善の方向にあるため、可能であれば中国に渡航し、研究者との交流を実施したい。第三に、2024年12月に、国際学術フォーラムを早稲田大学で開催し、国内外の実践家、研究者を招へいして研究の中間発表を行うとともに、国内外に研究成果を公表する予定である。
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