2023 Fiscal Year Research-status Report
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Project/Area Number |
23K02212
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Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
藤村 正司 徳島文理大学, 人間生活学部, 教授 (40181391)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 国立大学法人 / 運営費交付金 / 主人・代理人論 / 成果連動型評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
国立大学の法人化は国立大学の改革ではなく、行政組織ダウンサイジングであった。そのために政府は、国立大学の生み出した成果を客観的に評価し、評価に基づいて資源を再配分するニューパブリックマネジメント(成果連動型評価)を採用した。 3年計画の1年目は、法人化第3期に導入された成果連動型評価指標の実質的な効果を検討した。先行研究が指標間の相関関係を示すに留めていたのに対し,本研究では運営費交付金収益と教育・研究経費に対する効果を可視化することを目的とした。明らかになったことは、以下の3点である 第1は,現行の複雑な評価制度の下,一貫して運営費交付金収益に反映するのは,常勤教員数(承継定員)である。目標達成型の重点支援も「望ましさの基準」として設定した成果連動型指標も機能しておらず,ゼロサム競争を促すレトリックに過ぎない。にもかかわらず,代理人としての国立大学は曖昧な評価結果に釈然としないまま,自ら設定した数値目標の達成に向けてエネルギーを注がねばならない。ゼロ・サムゲームの下で,「勝ち組」の増額分は「負け組」のペナルティとして大学の基盤経費減で結果責任を取らされるルールになっている。 第2は,インプットとしての学生数や常勤教員数を統制すると,なるほど教育経費に対して重点支援②と③で博士授与数が,研究経費に対しては「常勤教員当たり研究実績」が重点支援①と②で有意な係数を持つことである。地域貢献など公共的ミッションを担う重点支援①に属する大半の国立大学が,意図に反して研究実績など一元的評価指標に収斂していることである。 第3は,パネルデータ分析から重点支援①の地方国立大学で教員人件費と教育経費がトレードオフの関係になっていることである。運営費交付金減の圧力下で,教育経費を捻出するために教員人件費を節減したため、現在の日本の研究力低下の遠因になったことなどを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究1年目の進捗状況について(2)を選択した。理由は、研究申請者が私立大学に異動したことにより、国立大学とは異なる環境の中で教員調査票の設計と実施など、研究計画書通りのステップは踏めなかったけれども、研究計画の内、財務諸表のデータベース化については、2005年~2021年まで国立86大学のパネルデータを拡充することができた。さらに、文部科学省の公開データを用いることで「成果連動型評価」には実効性がないこと実証的に明らかにした。 この点は、本研究が法人化4期を迎えた国立大学法人の「行政評価」として位置づけていることから、国の関与は法人法の衆参付帯事項にあるように国立大学法人の自主性・自律性を損なわないよう必要最小限であるべきことを支持するエビデンスを得ることができた。実際、わが国では交付金の算出がインプットベースではなく,中期目標の達成度に基づく反映の他,第2期以降に導入された機能強化のための重点支援,そして法人化第3期後半から追加された共通指標に基づく客観的相対評価に従国立大学法人国立大学法人に対する三つの評価は錯綜し,運営費交付金収益は不安定になるのにもかかわらず、具体的にどの評価指標が運営費交付金収益に対してどの程度反映するのか否かは,十分に検証されたことがなかった。 公開データを用いて第3期に導入した重点支援の枠組みに基づく達成度評価と客観・共通指標による相対評価が運営費交付金に与える効果を比較検証することで成果連動型評価が機能していないこと、公正な競争が組織されず,大学間でゼロ・サムゲームになっていること,三つの評価(①中期目標計画終了後の法定評価,②重点支援評価,③客観・共通指標評価)の間に整合性がなく,指標相互の相関が弱いことなどが明らかにされたことは評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年目は、研究計画にしたがって4つの調査を実施予定である。 第1は、国立大学・学部長調査票(415)を設計し、法人化4期を迎えた国立大学法人の現状と課題-教授会の役割や意思決定のあり方などを評価して戴くことである。 第2は、国立大学教員の学問生産性と研究資金配分の関連を知るために大学教員4,000人の個票データの再分析を行う。分析的には、潜在クラスモデルを利用する。潜在クラスモデルでは校費や科研費をカテゴリカル化し、国立大学類型をモデルに投入することで潜在的教員集団の規模と応答確率を同時に求める、さらに、潜在クラスを説明変数に加え、学術論文数をアウトカムとする負の二項モデルによる分析を行う。 第3は、国立86大学法人の財務諸表パネルデータを用いて、経常収益と経常経費の関係をハイブリッドモデルで検証する。これまでの財務諸表のパネル分析は固定効果で分析を行ってきたが、固定効果モデルとランダム効果モデルを組み合わせたハイブリッドモデルによって大学類型の効果を析出する。 第4は、国立86大学法人の第一期と第二期の中期計画・中期目標の内容分析を行う。このことで独立行政法人としての国立大学が政府の意図に同型化するプロセスを明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究計画1年目に予算150万円を計上したが、344,885円を次年度に繰り越した。理由は、申請者が私立大学に異動したことで、国立大学時代の研究支援体制が大きく変化したことである。結果として、研究計画書が当初予定していた国立大学財務担当者に対する取材の一部が実施できなかったため旅費がすべて消化できなかった。また、大学教員調査の対象者名簿を作成を支援する研究補助者が集まらなかったことにある。 翌年度分として請求した110万円と繰越金を併せた1,444,865円は、調査旅費30万円、アルバイト謝金20万円、物品費70万円(高等教育関係図書、統計ソフトSPSS,MPlusを含む)、その他(郵送費、第一次報告書作成)244,865円に当てる。
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