2023 Fiscal Year Research-status Report
間隙棲環形動物に学ぶ生物多様性実習:教材開発と実践
Project/Area Number |
23K02755
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
美濃川 拓哉 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (60400305)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | Dimorphilus / 環形動物 / 生活史 / 実習 / 生物多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、特徴的な生活史で知られるDimorphilus sp. cf. gyrociliatus (以前の属名はDinophilusだったが、近年の研究により変更された)を対象として、生物多様性実習プログラムを開発することを目指している。具体的には(1)実験動物化・教材化(飼育技術改良、観察技術・ツール開発、比較対象種の実験動物化、ガイド教材作成)、(2)Dimorphilus生物学(形態・生活史の研究、野外個体群の探索)、(3)実践、の三課題を実施する。初年度は(1)、(2)に取り組んできた。飼育技術改良については、従来の飼料よりも利便性の高い飼料を複数種類検討し、それぞれの特性を調査した。観察技術・ツール開発については、個体の活発な運動が顕微鏡観察の障害となっていることから、運動の抑制法の開発を重点的にすすめた。また、並行して、初期発生の観察法についても検討した。筋肉運動の抑制については薬剤による麻酔が有効であることを確かめた。繊毛運動の抑制については、高粘度溶液の使用が有効であることを発見した。現在は高粘度溶液の実際上の運用方法と、そのための実験器具について検討している。初期発生観察を容易にすることを目指し、成体から卵を切り出して観察する手法の開発にも取り組んだ。現時点では、切り出した卵が極体放出し、卵割するところまでを確認している。比較対象種の実験動物化については初期生活史の解明に着手したところである。ガイド教材作成用の静止画、動画の作成にも着手した。形態・生活史の研究については、個別飼育系での生活史記録の具体化にむけ、予備実験を進めている。野外個体群の探索については、磯や砂浜海岸でのベントス採集、プランクトン採集を複数回実施しているが、現時点では野外個体群の発見には至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、(1)実験動物化・教材化(飼育技術改良、観察技術・ツール開発、比較対象種の実験動物化、ガイド教材作成)、(2)Dimorphilus生物学(形態・生活史の研究、野外個体群の探索)、(3)実践、の三課題からなる。想定のとおり、あるいはそれに近い進捗状況にあるのは、飼育技術改良、観察技術・ツール開発の二点である。特に観察技術・ツール開発については想定以上の成果が得られた。Dimorphilusは非常に活発に運動するため、顕微鏡観察の際にはなんらかの方法でこの運動を抑制する必要がある。しかし、安全かつ形態への影響の少ない運動抑制法が確立されていないことが、顕微鏡観察を困難にしていた。今回、個体の運動の抑制法をさまざま検討した結果、筋肉運動は薬剤の麻酔が有効であり、繊毛運動は高粘度溶液で阻害することが可能であることが明らかになった。これらを組み合わせることで各種の顕微鏡観察が容易になることを確かめた点は初年度の成果として十分と考えている。成体から切り出した卵が極体放出し、卵割するところまでを確認したことで、初期発生観察が容易になったことも成果として十分と考えている。しかし、比較対象種の初期生活史の解明は、おもに技術的障害のために想定通りに進まなかったし、ガイド教材作成用の静止画・動画素材の蓄積も当初の計画通りには進んでいない。形態・生活史の研究についても、個別飼育系での生活史記録に着手したものの、技術的な問題の解決が遅れている。野外個体群の探索については、磯や砂浜海岸でのベントス採集、プランクトン採集を複数回実施しているが、現時点では野外個体群の発見には至っていないなど、成果が十分に得られているとはいえない項目がある。(3)実践については初年度には着手しなかった。これらの状況を考慮し、「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、(1)実験動物化・教材化については比較対象種の実験動物化とガイド教材作成に重点を置くとともに、(2)Dimorphilus生物学(形態・生活史の研究、野外個体群の探索)にも注力する。同時に、(3)実践に向けた準備をすすめる計画である。これまでに重要な技術的進歩があったので、今年度はこれらの成果を生かして、具体的な問題解決に本格的に着手するとともに、未解決の技術的課題の解決を急ぐ計画である。 比較対象種の初期生活史の解明については、これまでに判明している技術的課題を解決することが最優先課題といえる。これまでの予備的な初期生活史観察の過程で、技術的な障害がいくつか見つかっており、これらが情報収集の障害になってきた。Dimorphilus生物学のうち、形態・生活史の研究にも、比較対象種の初期生活史解明の研究で障害となっているのと類似の技術的問題が判明している。それぞれの障害については、解決の糸口が見つかってきているため、これらの問題解決を進めるのが最優先課題である。これらを解決したのち、生活史情報の具体的な蓄積を進めていきたいと考えている。野外個体群の探索については、今年度もさまざまな環境下での採集調査を行なっていく。生活史研究や野外調査の折々に、静止画・動画の撮影を行うことでガイド教材作成の素材を蓄積する予定である。
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Causes of Carryover |
予定していた学会出張をやむを得ぬ理由で取りやめたことと、英文校閲の必要性が生じなかったことにより、予定使用額に達しなかったためである。これらについては、今後、当該目的および物品費として使用する計画である。
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